脇見恐怖症(Visual tourettic OCD)

未分類
Pocket

症状の特徴

脇見恐怖症とは、現在の精神科の診断基準には明確にない病気です。現在のところ、多い訴えをまとめると下記のような症状があります。

  • 『自分が人をみることで、あいてに不快な感情を与えているのではないか?』という不安
  • 自分は、見たくないのに、目が吸い寄せられるように相手の方を見てしまう。周辺視野で認識していても、視野の中心に捉えるようになってしまう
  • 周辺視野で見ているのに、相手に気づかれて、嫌な気持ちにさせてしまう

診断的位置づけ

社交不安症という病気があります。社交不安症は、『自分が変なやつだと思われるのではないか?』という不安が多く、この脇見恐怖症とは逆の方向になります。脇見恐怖症は、自分が人に迷惑をかけていることが苦しくなるのです。

この自分が人に迷惑をかけていることが苦しくなる病気として、対人恐怖症が知られています。対人恐怖症は、日本特有の精神疾患とされています。そして、近年は、自己臭恐怖症(嗅覚関連付け症候群)、醜形恐怖症などとの関連が指摘されています。

この対人恐怖症は、社交不安症の亜型とされていますが、自己臭恐怖症や、醜形恐怖症は強迫症関連疾患になります。強迫症関連疾患なので、自己臭恐怖症、醜形恐怖症には強迫症と近い強迫行為があります。例えば、自己臭い恐怖症では、匂いを確認したり、醜形恐怖症は鏡の前での確認行為がやめられないということがおきます。

さて、脇見恐怖症ですが、当事者の話を聞くと、『見たくないのに、見てしまう』という止められない行動をうったえることに気がつきます。これは、非常に強迫行為に近い行動だと考えられます。

また、脇見恐怖症と概念的にとても近い病状に、Staring Obsessive Compulsive Disorder(凝視性強迫症) / Peripheral vision ocd (周辺視野強迫症)、 Visual Tourettic OCD(視覚性トゥレット様強迫症)というものがあります。

強迫症の専門家であるJonathan Graysonは、この状態をVisual Tourettic OCD(視覚性トゥレット様強迫症)と呼ぶことを提案しています。ここで、「トゥレット様」という言葉にした理由としては、脇見恐怖症の人が、意図的に凝視をしようとしているわけではなく、「勝手に目が動いてしまう」という感覚を持っているために、このような言葉を使うことにしています。

このVisual Tourettic OCDについて、アメリカの大型掲示板のredditのStaring OCDの掲示板では、下記のような相談が見つかります。

すべては私が大学に通っていたときに始まりました。私の隣の席に座っている友人が一人いました。ある日、授業中に彼女の大きな目があることに気づきました。気づいてからは、彼女の目を視界の端に捉えるようになりました。どんなに目をそらそうとしても、彼女の目を見ることが多くなりました。それからというもの、毎日隣に座る人の全身が視界に入ってきました。また、人々は私が彼らを見ていると感じているように感じました。彼らは常に私を監視しているように感じました(別の理由からなのかどうかはわかりません)。

今、私はオフィスで働いており、大きな部屋に3人の同僚がいます。1人は私の向かいに、もう1人は私の隣に座っています。しかし、私は常に彼らを見ており、彼らが常に私をチェックし、パソコンを直したり、私を見ないように体を回転させたりするので、彼らを不安にさせているような気がします。私は、向かいに座っている同僚を見ないように、追加のモニターを購入しました!

不思議なことに、自分の姿を録画すると、目はまったく動いていないのに、視界の対象物ははっきりと見えます。でも、目はまったく動きません。どうして私が彼らを見ているように感じるのか、私には理解できません。

この強迫性障害になってから、私の人生は以前と同じではありません。 脳に「見るな」と命じても、周辺視野を通して見てしまうのです。 絶対に止められず、本当に困っています。 見ない方が良いものまで、周辺視野で見てしまいます。

おかげで社交的な性格だった私が社会不安障害になってしまいました。おかげで人生が惨めなものになってしまいました。3年前からずっとこの状態です。

人と目を合わせることができません。おかげで友達もいません。

誰にも理解してもらえないので、誰とも話すことができません。ネットでこの障害について書かれた記事をいくつか読みましたが、みんな人生が惨めなものになったと書いていました。私にも同じことが起こっています。大学が始まりましたが、視界のどこか他の場所を見ているのが分かっているので、先生を見ることさえできません。人を見ると、服を直している人を見かけます。そして、自分自身に対してとても腹が立ちます。まるでサイレント・テロのようです。

絶望的な気持ちです。この強迫性障害についてご存知の方はいらっしゃいますか?克服した方はいらっしゃいますか?

この様なことを読んでいると、脇見恐怖症と非常に近い病態だと考えられます。

また、この脇見恐怖症は、対人恐怖症を超えて、凝視することへの衝動があることもみえてきます。この部分がとても強迫症らしい特徴とも言えます。

脇見恐怖症を強迫症の亜型として考えた場合、『視線によって相手に不快な思いをさせることを心配してしまう加害恐怖』という症状は、強迫症に特徴的な「拡大された責任」であることに気づくと思います。この拡大された責任は、パニック症、社交不安症、恐怖症などの他の不安症では、生じない感覚になります。

また、脇見恐怖症は、「見てはいけない」に反応して、「見たくなる」という衝動が生じます。例えば、人の性器がある位置を服の上から見てしまうなどの訴えがあります。このように、「禁止」に反応して症状が出現してしまう点も、強迫症の思考抑制との類似点がとても大きい部分になります。

強迫症はトラウマがあって発症する方もいます。脇見恐怖症に関しては、トラウマになる体験がある方も、ない方もいます。そのため、トラウマは危険因子ではありますが、原因ではないと考えられます。

治療

現在のところ、脇見恐怖症に確立された治療は、ありません。おそらくは、社交不安症の認知行動療法、強迫症の認知行動療法を組み合わせることがもっとも効率が良いと考えられます。脇見恐怖症で介入すべきポイントは下記の点です。

  • 周辺視野で人をみているとき、相手に気づかれる
  • 社交場面において、自分が意識すると眼球が他人に気づかれるくらいに動く
  • 自分が他人と目をあわせると、相手が必ず不快になり、その影響が強い

周辺視野で人をみているとき、相手に気づかれる

視野には、周辺視野(peripheral vision)と中心視野(central vision)が存在します。下の図をみると分かると思いますが、中心視野を広くとっても、8°くらいの範囲になります。

引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Peripheral_vision

カウンセリング内では、どの角度から「見られている?」という感覚が生じるのか?ということを試していきます(行動実験)。

また、実際の生活の中で、他人を意図的にみて、どれくらい相手が気づくのか?ということも実験していきます。

社交場面において、自分が意識すると眼球が他人に気づかれるくらいに動く

社交場面において、自分の眼球の状態をビデオモニタリングしてもらいます。そして、実際に眼球が動いているのか?という点を見てもらいます。

多くの人が眼球が動いていないのですが、一部に眼球が動いており、実際に見ている人がいます。

自分が他人と目をあわせると、相手が必ず不快になり、その影響が強い

脇見恐怖症の方は、相手に不快な思いをさせているという感覚がとても大きくあります。しかし、特に相手を一瞬見た場合にでも、相手が不快になることは少ないことがほとんどです。

特に、「見てはいけない」と禁止されているものに対して症状が強く出ます。そのため、人がたくさんいる場所などで、実際に「見てはいけない」と思う場所で、「見てはいけない」対象をみる練習をしていきます。

同時に、社交不安症の認知行動療法にあるような世論調査という技法を用いることがあります。例えば、友人や家族などに、「◯◯って見てしまうことある?」と質問して、「◯◯について見てしまう」ことが一般的なことであるという認識を持ってもらうこともあります。

このように、「見てはいけないものをみる体験」を続けていくと、「見てはいけないという禁止」が減っていくために、吸い寄せられるように見てしまうという感覚が減ります。

身体感覚を用いた感情調節

身体的に交感神経が高まっている状態があると、社交場面で「他人が気になる」という感覚が生じるようです。その場合、上記のような認知行動療法をやっても、「頭では分かっているんですけど…」という状態になりやすいです。

その場合は、身体感覚を用いた感情調節を行うと、「他人がきになる」という感覚が減っていきます。

薬物療法

SSRIなどの薬物療法が有効な場合もあるようですが、診断基準が確立されておらず、研究もありません。

Pocket

タイトルとURLをコピーしました