双極性障害とは、うつ病エピソード・躁病エピソードの両方を持つ病気だ。
双極性障害は、最近になってようやく色々なことが分かってきた病気だ。
双極性障害もうつ病相で発症する。そして、ストレス要因等で抑うつ状態になってから発症する場合もありうるので、初回のエピソード(初診時)には、双極性障害なのかうつ病なのか鑑別することは難しい。
この初回エピソードにおいて色々な指標が鑑別に役立つと言われているが、仮説的な段階で、これといった決め手はない。むしろ、鑑別が困難なことを念頭に診療をすべきであるとさえ言われている。
双極性障害である疑いが強まるのは、若年発症であること(10代後半~20代)、血縁の中に双極性障害がいることだ。
再発に関しては、うつ病も最初は、ストレス要因によって再発しやすいが、段々とストレスとは関係なく再発するようになることが言われている。これは、双極性障害も同じだ。ただし、ストレスによって再発しなくなるとはいえない。
また、双極性障害の遺伝的な研究においては、うつ病よりも統合失調症に近いことが分かってきている。そのいう研究の背景もあり、双極性障害は急性期には、妄想・幻覚が生じても良いということになっている。かつては、双極性障害がエピソード中に妄想・幻覚が生じると統合失調感情障害であると考えられていたが、むしろこれは双極性障害の症状が強まった状態であると考えたほうが自然だということだ。
双極性障害は、大きくⅠ型とⅡ型に分けられる。アキスカルによれば、5型にまで分けられるが、これは元の性格的な要因との掛け算で分ける分け方だ。臨床的には、Ⅰ型とⅡ型で事足りるような気がする。
Ⅰ型は、症状の起伏が激しい。急性期には、隔離や拘束、抗精神病薬の頓服が必要となるようなレベル。Ⅱ型は、そこまでなく、外来でも、まあなんとなく対応できるレベルだと考えておけばいいと思う。
問題は、躁病エピソード・うつ病エピソードの基準を厳密にとることだ。気分が落ち込んでいるからうつ病だとか、気分が上がっているからそう病だというふうにはならない。
そう病エピソードでは、自己肥大、睡眠欲求の減退、多動・多弁、後先考えない行動などの他の症状もみられないと、そう病エピソードだと認定されない。詳しくは、DSM-5等をみて確認すると良い。
この双極性障害だが、治療には3つほどの戦略を使い分ける必要がある。うつ病相に対して、躁病相に対して、維持に関しての3つである。
うつ病相に関しては、かつては抗うつ剤が用いられていたが、現在はリチウム等の気分安定剤が中心だ。むしろ、SSRI等によって、気分が高揚してしまうような賦活症候群(アクチベーション・シンドローム)は、うつ病ではなく、双極性障害の可能性があると言われている。躁病相に関しては、気分安定剤や抗精神病薬が使われる。
双極性障害は、非常に再発が多い病気のため、病相が一旦、安定しても、ある一定期間以上、服薬をしなければならない。(少なくとも2年以上)、この時は維持療法と呼ばれる。
双極性障害に対する治療は、薬物療法による所が多い。ガイドラインとしては、うつ病学会が出しているガイドラインが、非常に参考になる。
http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/110310.pdf
また、患者さんむけの資料としては
http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/sokyoku/pdf/bd_kaisetsu.pdf
が役に立つ。
当事者会としては、ノーチラスの会があり、色々な活動を行っている。
さて、肝心の心理療法についてだけれど、双極性障害のエピソードそのものに、これといって効果があると言われる心理療法はほぼない。
双極性障害に対しては、認知行動療法、対人関係-社会リズム療法が効果があると言われている。
個人的な感覚としては、一番大事なのは心理教育ではないかと思う。双極性障害に対する個別的な認知行動療法よりも、心理教育の方がコストは抑えられるし、それなりに効果があるので、心理教育でいいのではないか?という指摘もある。
エピソード中では、認知再構成法は、全く役に立たないわけではないが、役に立たないことが多い。行動活性化法は、わりと効果があるように思える時がある。社会リズム療法は、役に立っているのかわかりづらい。
再発予防という観点では、何が役に立っているのかは、正直、臨床的にはわかりにくい。というのも、アウトカムとして、再発するまでの期間を延長するというアウトカムしか出せない。30日とか延長していると言われても、臨床的な感覚としてはぴんとこない。
まとめると、心理教育をし、社会リズム療法、行動活性化療法をちゅうしんとした生活習慣への介入を中心として、再発予防のストレスマネージメントとして、対人関係療法、認知療法を行うという感じだ。
ただし、双極性障害Ⅱ型に関しては、合併する他の精神疾患がある場合が多い。例えば、不安障害、摂食障害、強迫性障害などだ。
心理療法的には、こちらの症状と気分の関連をセルフモニタリングさせるように働きかけると良い場合がある。例えば、気分の変動に過食・拒食が連動する場合がある。この場合、あまりボディイメージの障害がなければ、むしろ双極性障害の周辺症状と見たほうがいい場合もある。
不安障害・OCDに関しては、SSRIが使いづらいので、心理療法で押せると、精神科医としては助かるんではないかと思う。