不安障害(症)は、社交不安障害、パニック障害、全般性不安、特定の対象に対する恐怖症が主だ。
以前は、ここに強迫性障害が入っていた。
不安症は、全て、何らかの対象に対して不安という情動が生じ、生活上支障をきたす状態という意味では共通している。
この不安を消すために、多くの不安症は、何らかの行動をとっている。
例えば、社交不安症は、安全確保行動と呼ばれる、もじもじ体を動かす、手をぎゅっと握る、目をそらすなどの行動を取ることが知られている。これらは、不安に直面した際に、気を紛らわそうとして無意識的に取られる行動だ。
また、不安に直面する前に、不安になりそうな場面を避ける回避と呼ばれる行動も多い。
例えば、パニック症の方は、電車に長くのったりすることを避けたりする。
さて、これらの不安症と注意についての研究は、わりと以前からある研究領域だったりする。
注意とは、様々なコンポーネントに分かれている。その分け方は、色々な研究領域で違う。
以下に、代表的なものをあげる。
・選択性の注意
例えば、町で目標の建物を見つける際に、使われる機能。
ある特徴に基づいた対象物の情報が入力された際に、その情報処理が速く行われると言うもの。
視覚でなくて、聴覚でも起こる。
カクテルパーティー効果等も、この選択性の注意の機能と考えて良いと思われる。
・抑制性の注意
これは、逆に対象物ではないものに反応しないようにする能力。
例えば、勉強に集中しているときには、名前を呼ばれても気がつかなかったりする。
これは、勉強という作業に関係しない情報をシャットダウンしているとも言える。
この能力が損なわれると、転動性の注意障害(不注意)と呼ばれる。
不注意は、英語ではInattentionの訳語が多く、注意し続けられない(乱されやすい)というニュアンスが多い。
・持続性の注意
ある作業を継続して行う場合に、情報処理の効率を保ち続けられる能力。
例えば、単純作業をしていて、疲れるのが早い人は、この持続性の注意が苦手と言える。
・並行性の注意 (転換性の注意)
例えば、電話を取りながらメモをする際には、電話で話をきく + メモを取るという二つの作業を同時に行う必要がある。この際に、両方に等しく注意を向けられる能力。
同時に注意を向けるとも考えられるし、注意を向ける対象をすぐに切り替えているとも考えられる。例えば、電話口である程度相手の話に注意をむけ、話がまとまったら、メモを取る作業に注意を向ける。相手が、大事な話を始めたら、メモを中断し、相手の話に注意を向ける…のようにメインの作業とサブの作業を切り替える速さとも言える。
・注意のリソース(ワーキングメモリ)
これは、一時的に記憶をとどめておける程度とも言える。
パソコンに例えると、メモリだ。沢山のソフトを開き過ぎると、パソコンがフリーズしてしまう。人間も同じように能力の限界を越える量を一度に処理しようとすると、止まってしまう。
交通事故に会うなどで高次脳機能障害になると持続性の注意障害が起こりやすい。
ADHDの不注意は、抑制性の注意障害で説明できる。
ASDは、並行性の注意障害がある場合がある。必ずしも、全員ではないと思う。
これらの注意障害の概念は、高次脳機能障害等の脳外傷の領域から発展してきた概念なので、
発達障害や不安症等の全ての症状を説明することはまだできない。
一例として、不注意があるADHDの人でも集中しているときは、不注意が起きない人もいる。
そう、継続して注意障害が起こっているわけではない。
さて、不安症の注意障害としては、注意のバイアスが指摘されている。
健常な人でも、情報処理の過程で、大事な情報と大事でない情報は取捨選択している。
例えば、大勢の前で話す場面で、大事な情報は、部屋の向こう側に見える壁紙ではなく、聴衆の顔であろう。
顔写真をみた時も、洋服ではなく、顔に注目するだろう。
このように、人間の脳は、目から入ってくる情報全てを、均等に情報処理しているわけではない。
そして、不安症の人は、自分の不安に関連する情報処理だけが加速していることが分かっている。例えば、ちょっとした咳や舌を向くといった聴衆の行動に対してよく気がつき、発見するのだ。この傾向は強迫症でもPTSDでも起こる。
そもそも、不安という情動は、脅威に対する体の防御反応を生み出す機能がある。サバンナで、ライオンの声がしたら、その方向は?何体いるか?距離は?という情報を素早く処理しなければ、食べられてしまう。不安の機能とは、そういうものなのだ。
一方、不安症の人は、脅威がないにも関わらず、脅威であると感じ体が反応してしまっている状態であるとも考えられる。
不安症の人にエクスポージャー等の認知行動療法を行なった後、この注意のバイアスはある程度は改善する人がいる。やっぱり、気になると改善しない人もいる。
そういう人には、マインドフルネスや注意訓練といったリハビリテーションを追加する必要がある。場合によっては、初期からこの注意に関する介入を行う人もいる。
この注意(マインドフルネス)とエクスポージャー療法は、組み合わせることで効果が高まることが分かっている。