近年、トラウマやPTSDという言葉は、広く知られるようになってきました。トラウマは心の傷とも呼ばれ、幼少期の児童虐待、DV(ドメスティック・バイオレンス)、性被害、犯罪被害、身近な人の死、自然災害、交通事故などによって生じます。トラウマが重度な場合、PTSDと呼ばれる状態になります。
このような強いストレス状況を経験すると、嫌な出来事が突然頭の中に思い浮かぶフラッシュバックや悪夢と呼ばれる再体験、嫌な出来事を思い出すものを避ける回避、イライラや不安感といった過覚醒、ものごとに対する悲観的な考えといった後遺症が残ります。この後遺症が慢性的に残り続けている状態がトラウマ・PTSDです。
PTSDの研究では、強いストレス状況を経験するとその当時の記憶(トラウマ記憶)が断片化されることが分かっています。例えば、性被害にあった女性は、その出来事の一部始終を思い出すことができなくなっています。これは、トラウマ記憶が断片化しているためです。そして、人間の脳は事件の記憶は危険だから思い出さないようにとアクセスできないように抑えこもうとしています。しかし、一部の記憶は、脳の力では抑えこむことができずに漏れだしてしまいます。これがフラッシュバックや悪夢の正体です。
現在、トラウマやPTSDに対する治療法は様々なものがあります。その中にある一つの共通要因として、記憶の再構成があげられています。断片化した記憶を一つにつなぎ合わせ、なおかつ自分の中にあるポジティブな記憶ともつなぎ合わせるのです。この記憶をつなぎ合わせ、トラウマ記憶を思い出しても安全であると確信できるようになることが治療の目標になります。