HSPとは
子どもの頃から感受性が強く、人の中で過ごすことで疲れを感じたり、光や音に過敏に反応してしまう人がいます。なかには化学物質過敏症やアレルギーといった物質に対して強い抵抗を示してしまう人や、神経症や心身症といった心の問題を引き起こしてしまう人も見られるようです。
このように人より敏感なために生きづらさを感じている人は、HSPと呼ばれる特性を持っているのかもしれません。
HSPとはHighly Sensitive Personの頭文字からとった言葉で、非常に敏感な感覚を持つ人々として遺伝的に生まれ持った特性を表しています。提唱したアメリカの心理学者エイレン・N・アーロン博士をはじめとする研究者によると、人口の15~20%の割合の人が当てはまり、5人に1人はHSPの性質を持っていると考えられています。
HSPという特性を持つ人の特徴
この特性をもつ人々は、蛍光灯やブルーライトのような強い光や激しく大きな音、香水のような強い匂いといった五感への刺激に対して極めて敏感であったり、人に共感して心や言葉の意味を深く読み取ることから、対人関係で傷つきやすく、集団の中で疲れやすいといった悩みを抱えていることがあります。
一方で、芸術作品に深く感動して内面の精神世界を豊かに深めたり、繊細な感受性やひらめきを才能として開花させ、芸術家のような創造的な職業で活躍する人も見られます。また、小さなことに気がつく鋭い観察眼や、人の心を深く読み取る共感力・洞察力を活かして、優れたコミュニケーション能力を発揮する人もいます。
HSPの生きづらさ
しかし、「臆病」「内気」「神経質」といったネガティブなイメージを周囲に持たれてしまうことも多いことから、「敏感な自分は弱いのではないか」「傷つきやすい自分が悪い」「もっと鈍感に強く生きなければ」と自分を責めてしまう人も少なくありません。HSPという特性はアメリカにおいては徐々に知られるようになってきているものの、日本では未だ認知度が低く、医師やカウンセラーにもあまり知られていない場合があります。そのため、HSP特有の生きづらさを抱えながら、人知れず自分は病気ではないかと悩んだり、対人恐怖症などの精神疾患を疑ってしまうこともあるのです。さらに、子どもの頃から強い感受性を備えているために、学校という社会の中でストレスにさらされ不登校に陥ったり、慢性疲労症候群など心身に大きなダメージを負ってしまうこともあります。
HSPだから内気なのではない
内気な性格や臆病さといった性質は、さまざまな刺激に対して大きく反応するHSPという特性を持って生まれたことによって、学習の中で後天的に身に付けた恐怖感や慎重さであるといえます。そのため、言葉や感覚の受け止め方を変えたり、慎重で考え深い自分を受け入れることができれば、セルフイメージをポジティブなものに変えていくことも可能です。
また、HSPの人のうち7割は内向的な人々であることが知られていますが、残りの3割は外向的な性質を持っていることも分かっています。「寂しがり屋な性格で人といるのが好きでも、人の気持ちを考えすぎて疲れてしまう」「人と会話することは好きだけど、その場の空気を読み過ぎて辛くなる」といった悩みは外向的なHSPの人によく見られる特徴です。
HSPという個性
HSPという特性は病気ではなく、生き物が生存するために遺伝子に組み込まれたプログラムの一つであると考えられています。より敏感で繊細な感受性を持っているために、危険なものに対して慎重に近づいて判断し、回避することによって生き延びることができるのです。また、より敏感な個体が一つの集団の中に一定数存在していることによって、より危険を察知して集団を守ることができるとも考えられます。
現在、医療機関などでHSPの診断や検査を受けることはできませんが、提唱者であるエイレン・N・アーロン博士の作成したチェックリストを使ってセルフチェックを行うことで自分の特性を理解し、生きづらさの理由に気がつくという人もいるようです。
強い感受性や敏感な性質という個性をもつ自分を理解し、苦手なことや得意なことを見つけ、ときにはカウンセリングという手段を利用してケアを行っていきながら自分らしい生き方を探していきましょう。