再体験・過覚醒型PTSDと解離型PTSD

PTSD トラウマ
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今回は、PTSDにおける、フラッシュバックではなにが起こっているのか?ということを解説していきたいと思います。PTSDの脳科学研究で最も有名なのは、Ruth A. Laniusだろうと思います。彼女の功績から、DSM-5に解離型のPTSDが組み込まれたと言われています。

Lanius(2010)では、通常のPTSDと解離型のPTSDのレビューを行っています。通常のPTSDは、再体験・過覚醒と呼ばれています。トラウマ記憶を思い出すと激しい苦痛を引き起こすタイプです。一方、解離型のPTSDの特徴は、トラウマ記憶に対して現実感の喪失(離人感)を訴えるというタイプです。それぞれの、タイプについてLanius(2010)では次のように概念化しています。

再体験・過覚醒PTSD患者は、覚醒調節および感情調節に関与する内側前脳領域(前頭前野腹内側部や吻側前帯状皮質)で活動低下が見られる。皮質の変調障害と一致して、辺縁系、特に扁桃体(恐怖条件付けに重要な役割を果たすことが示されている脳の構造)の活性化の増加が、トラウマ記憶想起後のPTSD患者で観察されている。私達は、このようなPTSD患者を、トラウマ記憶に反応して感情の調整困難が生じるタイプと概念化する。このような反応には、フラッシュバックのようなトラウマ記憶の再体験が含まれている。再体験・過覚醒の反応は感情調節の困難であるととらえられる。この過程は、前頭前野が大脳辺縁系の抑制をうまくできないことによって生じている。

Lanius(2010) Emotion Modulation in PTSD: Clinical and Neurobiological Evidence for a Dissociative Subtype

再体験・過覚醒型とは対照的に、解離型PTSD患者は、背側前帯状皮質および内側前頭前野を含む覚醒度調節および感情調節に関与する脳領域で異常に高い活性化を示す。つまり、解離性PTSD患者は、トラウマ記憶を思い出すと感情を抑制しすぎている状態として概念化できる。この状態は、トラウマ記憶に対して離人感・現実感喪失が生じている状態であり、正中前頭前野が大脳辺縁系を抑制するために生じる。

Lanius(2010) Emotion Modulation in PTSD: Clinical and Neurobiological Evidence for a Dissociative Subtype

簡単に言うと、再体験・過覚醒型は、扁桃体が活性化して激しい感情的苦痛が生じます。それと同時に、扁桃体の活動を抑制していた内側前頭前野の機能低下が生じるのです。一方、解離型は、内側前頭前野が活性化し、扁桃体の激しい苦痛を抑制してしまい離人感・現実感喪失が生じるというわけです。

これを図にすると、下図のようになります。

また、PTSD患者は、この両方のどちらかに振り分けられるわけではなく、両方の状態が生じる可能性があると言われています。一方で、複雑なトラウマを持っているほど、解離型の状態になることが多いとも言われています。

参考文献

Ruth A. Lanius, Eric Vermetten, Richard J. Loewenstein, Bethany Brand, Christian Schmahl, J. Douglas Bremner, and David Spiegel. 2010 Emotion Modulation in PTSD: Clinical and Neurobiological Evidence for a Dissociative Subtype. The American Journal of Psychiatry Volume 167 Issue 6 Pages 640-647

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