トラウマと身体疾患

PTSD トラウマ
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幼少期の逆境体験(ACE)の研究により、幼少期のトラウマが精神面だけでなく、身体的な側面にまでも影響が分かってきました。ここでは、複雑なトラウマを持つ方によく見られる身体的な問題について解説します。

線維筋痛症(Fibromyalgia)

線維筋痛症は、全身に痛みがある病気です。厳密な定義は下記になります。

線維筋痛症は、身体の広範な部位に原因不明の慢性疼痛と全身性のこわばりを主徴候とし、随伴症状として多彩な身体、神経・精神症状を伴い、いずれの徴候も慢性疼痛と同様に身体診察や一般的画像検査を含む臨床検査で症状を説明できる異常を見いだせない。

線維筋痛症診療ガイドライン, 2017

Niloofar Afari et al(2014)のレビューによれば、虐待の既往がある場合、線維筋痛症の発症リスクが2.52倍になるそうです。

慢性疼痛( chronic widespread pain )

慢性疼痛は明確な定義がまだ決められていませんが、持続性の疼痛であり、進行性の非がん性疼痛に基づく痛みであると言われています。慢性疼痛をどのように分類するかは難しい問題ですが、どの部分にも出現するということです。

Niloofar Afari et al(2014)のレビューによれば、虐待の既往がある場合、慢性疼痛の発症リスクが3.35倍になるそうです。

線維筋痛症と慢性疼痛は、共に「痛み」を中心とした病気ですが、複雑なトラウマがある場合、疫学的にも「痛み」に関する問題が出現しやすいことが分かります。また、特に一般身体科の検査による所見がほとんどないという点も特徴でしょう。

顎関節症( temporomandibular disorder )

顎関節症は、顎(あご)に関連する包括的な疾患です。複雑なトラウマとの関連では、やはり痛みに関することが多い印象があります。

Niloofar Afari et al(2014)のレビューによれば、虐待の既往がある場合、線維筋痛症の発症リスクが3.33倍になるそうです。

慢性疲労症候群( chronic fatigue syndrome )

慢性疲労症候群は、その名前の通り疲れやすいということが主症状の病気です。厚生省CFS診断基準試案は、下記になります。

  • A.大クライテリア(大基準)
    • 1.生活が著しく損なわれるような強い疲労を主症状とし、少なくとも6ヶ月以上の期間持続ないし再発を繰り返す(50%以上の期間認められること)。
    • 2.病歴、身体所見.検査所見で表2に挙げられている疾患を除外する。
  • B.小クライテリア(小基準)
    • ア)症状クライテリア(症状基準) (以下の症状が6カ月以上にわたり持続または繰り返し生ずること)
      • 微熱(腋窩温37.2~38.3℃)ないし悪寒 
      • 咽頭痛 
      • 頚部あるいは腋窩リンパ節の腫張 
      • 原因不明の筋力低下 
      • 筋肉痛ないし不快感 
      • 軽い労作後に24時間以上続く全身倦怠感 
      • 頭痛
      • 腫脹や発赤を伴わない移動性関節痛 
      • 精神神経症状(いずれか1つ以上)
        羞明、一過性暗点、物忘れ、易刺激性、錯乱、思考力低下、集中力低下、抑うつ
      • 睡眠障害(過眠、不眠)
      • 発症時、主たる症状が数時間から数日の間に発現
    • イ)身体所見クライテリア(身体所見基準)(2回以上、医師が確認)
      • 微熱、2. 非浸出性咽頭炎、3. リンパ節の腫大(頚部、腋窩リンパ節)

この疾患も明確な身体疾患によっては説明されないことが特徴です。複雑なトラウマがある場合、特に原因不明の微熱が多いことをよく感じます。風邪をひいているわけではないのに、ずっと熱っぽいことが続くという方も多いです。

Niloofar Afari et al(2014)のレビューによれば、虐待の既往がある場合、線維筋痛症の発症リスクが4.06倍になるそうです。

過敏性腸症候群( irritable bowel syndrome )

過敏性腸症候群は、腹痛とそれに伴う便通異常で生じます。複雑なトラウマの場合、過敏性腸症候群に関連して不安・心配といった症状が出現しているように感じます。

Niloofar Afari et al(2014)のレビューによれば、虐待の既往がある場合、線維筋痛症の発症リスクが2.22倍になるそうです。

まとめ

複雑なトラウマに苦しんでいる場合、身体的な症状として様々なものが出現します。逆に言えば、これまで並べてきた疾患の背景には複雑なトラウマがある可能性があります。その場合、トラウマの治療を行えば上記の疾患が緩和される可能性があります。

RCTなどのエビデンスはありませんが、明確にトラウマとの関連が指摘できるような場合、トラウマの治療を行うことで症状が緩和されていきます。

参考文献

  • Niloofar Afari, Sandra M. Ahumada, Lisa Johnson Wright, Sheeva Mostoufi, Golnaz Golnari, Veronica Reis, and Jessica Gundy Cuneo. 2014 Psychological Trauma and Functional Somatic Syndromes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Psychosom Med. Jan; 76(1): 2–11.
  • 日本線維筋痛症学会 2017 線維筋痛症診療ガイドライン
  • 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ 2018 慢性疼痛治療ガイドライン
  • 一般社団法人日本顎関節学会 2018 顎関節症治療の指針 2018
  • 日本消化器病学会 2014 過敏性腸症候群(IBS) 診療ガイドライン2014
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