自分でスキーマ療法に取り組む

スキーマ療法
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今回は、スキーマ療法を自分で進めていくために必要なことを書いていければと思います。ただ、なんの本もなく進めていくことは、難しいと思うので、下記の伊藤絵美先生のスキーマ療法の本を参考に使います。

  • 自分でできるスキーマ療法ワークブック Book 1 生きづらさを理解し、こころの回復力を取り戻そう
  • 自分でできるスキーマ療法ワークブック Book 2 生きづらさを理解し、こころの回復力を取り戻そう

この本は、スキーマ療法を自習していく上で非常に良い本だと思います。通常の認知行動療法から進み、マインドフルネス、スキーマ・マップの作成、スキーマモード・アプローチへと進んでいきます。ただし、この本では、いくつか難しいと思うところがあります。

トラウマが重症化するとマインドフルネスが難しい

この本では、中盤くらいにマインドフルネスが出てきます。マインドフルネスはある程度、回復してくると実践したほうがいい技法ですが、トラウマが重症化している場合、フラッシュバック・解離などの症状が多い場合は、マインドフルネスなどで体の状態を観察したり、自分の気持ちを知ろうとすることが怖いという感情になることがあります。

各スキーマに対応する基本的な戦略が書かれていない

早期不適応スキーマには、いくつかの成り立ちと戦略があります。これらが本の中にかかれていないので、早期不適応スキーマに対する基本的な対応がないのです。ここでは、これらのスキーマと対応について説明します。

見捨てられスキーマ

これは、「人は自分を見捨てていく存在だ」という感覚が強く、対人関係に非常に大きな問題が生じます。もともと、境界性パーソナリティ障害の中核症状であると言われていることもあり、非常に多くのパーソナリティ障害に共通する症状です。

主な治療の目標としては、『人間関係がある日突然、切れてしまうことはそうそうない』『 ある人と関わりがたたれても、その人の存在が自分から消えてしまうわけではない。(心の中に居続ける)』ことを学ぶことになります。

この見捨てられスキーマは、幼少期に母親の像を内在化できなかったために起こるとも言われています。そのため、このスキーマを克服するためには、誰かが自分の中にいて、その人が自分を見捨てないでずっとそばにい続けているという感覚を持つようにしていく必要があります。

不信/虐待スキーマ

このスキーマを持つ人は、人から攻撃されているという感覚が強く出てきます。このスキーマは、直接的な加害を加えられた場合によく形成されます。このスキーマが活性化されると、なんでもない人達が自分を攻撃してくるように感じます。これは、フラッシュバックのような現象とも言えます。

このスキーマの治療目標は、「確かにこの世には信頼できない人もいるが、一方で信頼できる人もいる」「自分の自己開示の程度を、人・内容によって変える •自分と意見が違う人とも人間関係が続けていける」になります。闇雲に人に慣れようとするのではなく、信用できる人・できない人を区別できるようになるという点もとても大切なポイントです。

そのためには、「安心感」が非常に重要になります。高ぶった感情を落ち着け、過剰な不信感を和らげていくのです。このスキーマへの対処は、タッピング等の方法でも非常に効果があると感じます。

「愛されない」「わかってもらえない」スキーマ

このスキーマは、スキーマ療法を初めた際には、持っていることが自覚できないことが多いスキーマでもあります。孤独/苦痛/憂うつによって隠されているのです。

このスキーマを持っている事による問題は、「自分が人に何を求めているのか?」が分からないということです。漠然とした苦しさなのです。そのため、治療の目標としては、「自分が人になにを求めているのか?を知る。」「 自分の中に出てくる感情的欲求を認められるようになる」「 自分の気持ちを出してもいいのだという感覚」が治療の目標になります。

このスキーマを克服していくためには、過去の体験で自分の何が満たされなかったのか、なにをしたかったのかを知っていく必要があります。さらに、現在の生活においても、どの感情が満たされていないかを知っていくことがポイントになります。

欠陥/恥スキーマ

このスキーマは、自分という存在が欠陥品であるという感覚や、自分は不完全な存在だという感覚です。「自分が気持ち悪い」という感覚も入ってきます。このスキーマは、いわゆるトラウマの自責感に対応しています。

このスキーマを克服していくには、過去の時点で、自分が恥・欠陥を持ったきっかけになった出来事を特定する必要があります。この過去の出来事は、治療の開始時点では思い出せないことが多いです。もしくは、思い当たるエピソードがあっても、なぜ加害者の理屈を信じてしまったのかがよくわからない場合もあります。この部分を紐解き、加害者の言葉をしっかりと退ける必要があります。

社会的孤立/疎外スキーマ

このスキーマを持つと自分は異質な存在だという感覚がします。このスキーマの克服方法は、人と繋がるというという方法がよいとされていますが、トラウマがあるとその経験のために他者との交わりの中で「分かってもらえない」「話しても通じない」という感覚があるため、孤独になることが多いように思います。その場合、自分自身に対して、「○○で苦しかったから、今、✕✕という気持ちになっているんだね」と伝えていくことで孤独感が和らぎます。

依存/無能スキーマ

このスキーマを持つと、「自分は無力でなにもできない」「誰かに頼らないと生きていけない」という感覚に悩みます。

この無力感は、過去の何らかのトラウマ場面での無力感が再現されている場合が多いです。例えば、複雑なトラウマがあると、何かの物事を始めようとすると、途端に自分の無能な感じに苦しみます。この場合、この無能な感じに、「恐怖感」が入ってきます。この部分に気づくこともポイントです。

このスキーマの克服法は、依存/無能スキーマが生まれた出来事において、感じた無力感を整理していく必要があります。その渦中にいたとき、自分は本当に無力だったのか?を整理していくのです。

「この世は何があるかわからないし、自分はいとも簡単にやられてしまう」

このスキーマを持つと、心配しなくてもいいようなことが異常に心配になります。例えば、明日、誰かが死ぬんじゃないか、自分が突然仕事を失うんじゃないかなどです。トラウマは、日常という当たり前のものが失われる体験なので、何らかのトラウマから出てくることも多いスキーマです。

このスキーマの克服法も、過去のこのスキーマが出てきた時点で何が怖かったのか、何が苦しかったのかが明確になっていくと、「いまは、その心配はしなくてもいいんだ」という感覚が生まれてきます。

巻きこまれスキーマ

このスキーマがあると、「自分らしさ」が分からなくなります。特に自分の親の価値観と自分の価値観の区別がつかなくなります。例えば、『「なんでも、完璧にしないといけない」と思っているけれど、本当はそんなことしたくない』と言った場合、この完璧主義は親の価値観であったりします。

このスキーマの克服法は、常に自分にどうしたいのか、どういきたいのかを問い続けることです。そして、自分の価値観、そうでない価値観を選り分けていき、自分に必要のない価値観については、しっかりと拒否をしていく必要があります。その中で、その価値観を押し付けてきた人が誰なのかがはっきりと分かってきます。

失敗スキーマ

このスキーマは、その名前の通り、「自分は失敗してばっかり」という感覚が抜けないスキーマです。発達障害を持っている方に多いとされています。

このスキーマの克服方法は、自分が失敗スキーマを持つに至った過去の出来事を整理し、その部分の問題の責任について検討していく必要があります。例えば、親から「お前は、こんな事もできないのか」と言われたことでこのスキーマができた場合、本当に自分のせいで問題が発生したのかと検討してみます。そして、責任を親・加害者にしっかりと返していくということが必要になります。

服従スキーマ

このスキーマを持つと、自分の欲求を抑えて、誰かの意見に合わせたり、自分の気持を抑え込むという傾向があります。

このスキーマでも、過去のある時点で、本当は何を望んでいたのか、どうして欲しかったのかを知ることが一つの鍵になります。また、自分が抑え込んでしまった感情に名前を付け、その感情をしっかりと表現する必要があります。

自己犠牲スキーマ

このスキーマを持つと、自分のことを差し置いて人を助けてしまいます。しかし、「自分がいつも損をしている」という感覚になり、時にはイライラしてしまいます。

このスキーマの克服法は、まずは自分の欲求をしっかりと把握することが必要です。特に自己犠牲スキーマがあると、相手が何を求めているのかはよく分かりますが、自分が何を求めているのかが見えません。そのため、自分の欲求を拾うことがとても大切です。次に、どこまでが自分を犠牲にしていいのかという境界線(ライン)を決めるのです。自己犠牲スキーマが強いと、「ここまでやれば、もういいだろう」という感覚が持てません。そこで、その境界線をしっかりと決めていく必要があります。

「ほめられたい」「評価されたい」

このスキーマを持つといわゆる承認欲求に振り回されます。自分のやりたいことではなく、他人が自分に望んでいることを中心に自分の人生を考えてしまうので、人生が振り回されているように感じます。

このスキーマの克服方は、このスキーマができたときの過去の自分に、「あなたは、ちゃんとできているよ」としっかりいうことです。過去の自分がしっかりと褒められた・評価されたと感じたとき、少しづつ、この苦しみは癒えてきます。

否定・悲観スキーマ

このスキーマがあると、とてもネガティブになります。悪い方向に物事が進んでしまうという感覚が抜けません。

このスキーマの克服法としては、この悲観的な価値観を押し付けてきたのは、誰でいつの時点で埋め込まれたのかをしっかりと特定することです。または、幼少期の死別などの体験が契機になっている場合、その過去の自分の苦しみにしっかりと共感することが必要です。

感情抑制スキーマ

このスキーマを持つと、「自分の感情をコントロールできない」「自分の感情を出してはいけない」という感覚が抜けません。理性的に生活することは必要ですが、感情をしっかりと感じなければ、自分の人生を自分が向かいたい方向に進めることが難しくなります。

このスキーマの克服法は、このスキーマ単体で行うよりも、別のスキーマと一緒に過去を検討していく中で緩和していくほうがよいです。過去の自分が、どんな気持ちでいるかを知り、しっかりと共感することで、このスキーマは緩和されていきます。

完ぺき主義スキーマ

このスキーマを持つと自分を完璧にしようとするのですが、なかなか完璧にならないので苦しみます。時に強迫症の背景にこのようなスキーマが隠れていることがあります。「しっかりしないといけない」という価値観が強すぎるという場合にもこのスキーマが疑われます。

このスキーマは、よく親がこのスキーマを持っており、そのスキーマを内在化させてしまう場合が多いのです。そのため、しっかりとこの価値観はいらないと、過去のスキーマを押し付けてきた人に言う必要があります。

また、このスキーマはかなり、自分自身の価値観に入り込んでいることが多いため、過去の自分になぜ、このスキーマを取り入れるに至ったかをしっかりと尋ねて、その問題を解消する必要もあります。

罰スキーマ

このスキーマは、周囲にも完璧さを求めるというスキーマです。そのため、他人の失敗を許せずに、大きな怒りが湧いてきます。

このスキーマも、完璧主義スキーマと同じで、親がこのスキーマを持っており、そのスキーマを内在化させている場合があります。そして、この罰スキーマを持つに至った過去の自分がどんな気持ちだったかを知る必要があります。特に、自分に自信がない、他人に責められるのが怖いなどの理由があることが多いのです。その過去の苦しみに共感することも必要です。

「オレ様・女王様」スキーマ

このスキーマを持っている場合、自分には特権が与えられて当然だという感覚があります。このスキーマを持っているだけで、本人が困ることは少ないのですが、周囲が振り回されます。特に、DVやモラハラをしている加害者が持っているスキーマです。

このスキーマを持っている人は、まずなかなか治療に来ません。スキーマを緩和させるには、人権教育などの人は平等であるという感覚をまずはしっかりと知る事が必要です。そして、このスキーマは自分自身の自信のなさの過剰保証からきている場合が多いのです。そのため、過去の自分の傷つきを癒やしていくことが必要になります。

「自分をコントロールできない」

このスキーマを持つと、自分のことをコントロールできないという感覚に悩みます。特にADHDの人に多いと言われています。

このスキーマを克服していくには、認知行動療法の技法を使い、自分のコントロールする方法を学んでいくことになります。

ヘルシー・アダルトモードのイメージが浮かばない

スキーマ療法の一つの要は、自分の中にあるヘルシー・アダルトモードを成長させていくことです。ただ、このヘルシー・アダルトモードは、なにも経験がないとなかなか思い浮かばないために、自習をしていると難しいと思います。

まず、ヘルシー・アダルトモードの一つの役割は、しっかりと自分の話を否定せずに聞くということです。どんなに、道徳的に正しくないようなことでも、そのような気持ちになった理由がどこかにあるはずです。どんな子供も自分の話を否定せずに最後まで聞いてくれる親を求めているものです。そして、ヘルシー・アダルトモードは、そのような気持ちに至った自分に共感してくれます。例えば、「親を殺してしまいたい」と自分が思ったとしても、「そんな気持ちになるには、どんなことがあったのかな?」と聞いてくれ、「そんなにあなたが苦しんだのだったら、そんな気持ちになるよね」と共感してくれます。

もう一つのヘルシー・アダルトモードの大きな役割は、自分を守ってくれるということです。例えば、「お前は、なにもできない」と言われた時に、「そんなことはない」としっかりと、そのような声から自分を守ってくれます。早期不適応スキーマがある場合、今までの人生のなかで多くの出来事、言葉が刺さったままになっているのです。ヘルシー・アダルトモードがその棘を抜き、しっかりとその言葉を否定してくれます。そうやって、自分を守ってくれるのです。

最後の大きな役割は、自分自身の能力や向かう先を尊重し、応援してくれるということです。例えば、「自分は新しい仕事がしたい」と思った時に、無能・依存スキーマが「お前は仕事はできない」と言ってきたりします。そんな時に、ヘルシー・アダルトモードが「あなたは、ちゃんと仕事ができるし、あなたがやりたいと思っていることを頑張ったらいいと思うよ」と保証をしてくれます。

まとめ

スキーマ療法を自習していくために、いくつかのポイントを紹介しました。スキーマ療法は細かく自分の苦しんでいることを整理していく軸や、ヘルシー・アダルトモードという概念が非常に特徴的な治療法です。また、既存の認知行動療法も役に立ちますし、他のトラウマの治療とも相性がよいです。

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