PTSD治療が必要な理由 1

PTSD トラウマ
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PTSDの治療を巡っては、しばしば過去の辛い記憶を無理に掘り起こすことはないのではないか、という疑問を持つ方が見られます。現在起きている症状をしっかりと抑えていけば、過去の記憶に対して処理を行わずとも、時間の経過と共にトラウマ体験に関する記憶が自然治癒していくのを待ち、実生活の中でストレスなく適応していくための機能の回復を優先させることで良くなる、という考えです。ときに生死に関わるような大きなトラウマ体験に遭遇した人にとって、そのときの辛い記憶を治療のために呼び起こすことは、精神的にも肉体的にも大きな負荷がかかってしまうと考えられるからです。

「トラウマ治療」と聞いて、忘れたいと思っている辛い記憶を、なぜまた思い出さなくてはいけないの?と疑問に思ってしまう患者さんも多くおられるようですが、経験した記憶の壮絶さを考えると、その疑問も無理もないことだと思われます。また、PTSDの症状のひとつである回避行動が、トラウマ体験によって脳が学習した防衛反応であるとするならば、再び危険が迫ったときにトラウマを解消してしまっていたら、危険から身を守れなくなってしまうのではないか?と考えてしまう人もいるようです。

 

トラウマ治療は負担?

本当にトラウマは治療しないほうが良いのでしょうか?たしかに、トラウマ記憶が何度も蘇ることによって、危険なことに近づかないように注意深くなるかもしれません。これは自分の身の安全の確保につながります。トラウマ体験を周りの人に話すことによって、危険を周知し周りの人の安全にもつながるでしょう。

また、トラウマ治療を行うことによって一時的に症状が悪化したようになる人もいます。そして、PTSDを患う人の多くは時間の経過とともに自然に回復していくことが分かっています。症状によっては、安心感を確保し環境を整え、心理的にサポートを行うことで自然な回復を促します。

しかし、中にはPTSDの症状が長引き、なかなか回復せずにうつ病や他の不安障害といった二次的な病気を発症する人もいます。PTSDを患いトラウマ記憶を処理しないまま生活を続けることは、時として患者さん本人の人生をとても生き辛いものにしてしまうのです。

つまり、トラウマ記憶が未解決のまま、自然に回復することなく心に残り続け、心身に深く影響を及ぼしてしまう状態こそが、PTSDという疾患の正体であるといえるのです。

 

ストレス反応の3つのF

人には、自分の生命を脅かすような危険に直面したときに、闘争(fight)逃走(flight)凍結(freeze)という3つの手段で心と体を守ろうとする機能が備わっています。

闘争(fight)反応では、外界からもたらされる危険に対して身を守ろうと、戦う構えをとります。災害から身を守るために必死に周りの人たちを助けたり、虐待から周りの兄弟を守ろうと立ち向かうかもしれません。

逃走(flight)反応では、立ち向かうことでは命を守れないと察し、脅威から逃げ延びようとします。地震の揺れを感じて身を隠そうとしたり、大声で怒鳴っている人を避けようとしてしまうかもしれません。

これら2つの闘争ー逃走反応では、戦ったり逃げ延びるための体の構えとして交感神経が活発に働きます。瞳孔が開いて心拍が上がり、呼吸は浅くなります。通常のストレスであれば脅威が去ると再び体の落ち着きを取り戻し、副交感神経が優位なリラックスした状態に戻ることができます。

そして、3つ目の凍結(freeze)反応では、目の前の危険に対して戦うことも逃げることもできないと脳が判断した時、その危険を感じなくて済むように自分の意識を切り離すことで自分を守ろうとします。これを専門的な用語では、解離と言います。

 

フラッシュバックが起こる理由

これら3つの反応は、野生動物にも見られる本能的に遺伝子に組み込まれた脳のシステムです。

ライオンに遭遇したシマウマは、自分の命を守るために、果敢に戦うか一目散に逃げるでしょう。しかし、それでも助からないと判断した時には、一時的に仮死状態を作り出して固まってしまいます。いわゆる死んだふりをしていれば、ライオンは興味を失って立ち去るかもしれません。自分の意識を切り離してしまうことで、ライオンに襲われる死の恐怖も感じずに済ませることができます。さらに、本当に襲いかかられて神経を噛みちぎり食べられてしまうときにも、シマウマは自分の全体から意識を切り離して解離を起こすことで、死の恐怖や苦痛を感じないようにしているのです。

トラウマ体験に関する記憶が曖昧で思い出せなかったり、そのときの感情が分からない・他人事のように感じるといった症状は、この解離のために起こると考えられています。しかし、意識の上では記憶に残っていないと感じていても、トラウマ的な事件によって体験した五感・感情・体の反応といった情報の全ては詳細に脳に刻み込まれます。これが脳内に鮮やかなまま冷凍保存されたPTSDのトラウマ記憶となり、たびたび悪夢やフラッシュバックと言った症状を引き起こして本人を日常的に苦しめることになるのです。

 

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