鼠径部反応とは、性に関する強迫観念を持つ人に多い身体的な反応です。例えば、自分が『同性愛者なのではないか?』という強迫観念を持つ強迫症の当事者が、同性と出会ったときに、『自分が性的に興奮したのではないか?』という強迫観念にとらわれることがあります。この時、心拍数が上がったるなどの身体的な反応も生じるのですが、性器のうずきなどの身体反応も起こります。これを鼠径部反応(Groinal response)と呼びます。
鼠径部反応は、実際の性的興奮ではないのですが、多くの当事者は、『自分が本当に性的に興奮しているのではないか?』と捉えてしまいます。そして、『実際に、自分は興奮している』と考えてしまう当事者もいます。
実際に、性的興奮が起こった証拠としての生理的な反応を報告する方もいます。勃起するような感じ、性的興奮が起こっている、持続性性喚起症候群になったと表現するかたもいらっしゃいます。
どの様なメカニズムで起こるのか?
強迫症は、想像したことが本当に起こるという感覚(思考の重要視)という感覚があります。そのため、『これは、性的興奮が起こっているのではないか?』という不安が、『これは、実際に性的興奮が起こっている』という感覚になってしまいます。
また、当事者としては、性的興奮が生じてしまうと、不安が強まってしまうので、常に鼠径部や性器に意識をむけて確認行為をしている場合があります。そうすると、その部分に対して意識が向き、僅かな身体反応でも拾ってしまいます。
パニック症では、常に発作が出るのではないか?という不安が生じるために、自分の発作の兆候を常に確認するということがおきます。そして、その過程でパニック発作に繋がらないはずの僅かな息切れ・動悸すらも、「パニック発作が起こるかも」と不安になる現象が起きます。これを破局視と認知行動療法では呼びます。この破局視は、過敏性腸症候群や慢性疼痛など、他の身体的な不調が伴う病態でも生じることが知られています。この現象が強迫症でも生じます。
更に強迫症は、『嫌な考えが出ないようにするほど、その考えが浮かぶ』という思考抑制という現象が起きます。そのため、『興奮してはいけない』という禁止が、『興奮しているのかも?』という強迫観念を浮かびやすくさせてしまいます。
持続性性喚起症候群ではないのか?
持続性性喚起症候群とは、持続的に性的興奮が出現する病気です。強迫症の方で鼠径部反応で悩んでいる方には、このような不安を抱えている方も多いです。しかし、持続性性喚起症候群は、身体的な疾患です。そのため、環境的な要因に関わらず、身体的な快感が生じ続けます。
一方、強迫症の場合は、強迫観念によって生じるために、『強迫観念を浮かばせたくない場面』で性的興奮が生じているように感じます。例えば、同性といるときや、強迫行為中などが多いです。このように、性的興奮が状況依存的に生じるために持続性性喚起症候群ではないのです。
治療は?
強迫症の本人としては、『性的興奮をとめたい』と考えることが多いです。まずは、その性的興奮と思われるものが、性的興奮ではないことをしっかりと理解することが必要です。ときには、性的興奮と自分の性的興味が必ずしも一致しないということも知っておく必要があります。
また、性的興奮を出そうとしながら、暴露反応妨害法をするということも大切です。この曝露によって、『性的興奮が仮に出たとしても、自分自身のアイデンティティに影響はないのだ』という体験をして、思考の重要視を壊していくことが重要です。