対人恐怖症

全般性不安症(全般性不安障害)
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この記事はAIによってまとめています

対人恐怖症は、他者との関係性において過度の不安や恐怖を感じる精神疾患です。日本で発見され、長らく日本特有の文化結合症候群と考えられてきましたが、近年では他の国や文化圏でも類似の症状が報告されています。本記事では、対人恐怖症の歴史、主な症状、サブタイプ、そして社交不安症(社交恐怖)との違いについて詳しく見ていきます。また、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)における対人恐怖症の位置づけについても解説します。

対人恐怖症の歴史

対人恐怖症の概念は1920年代に日本の精神科医である森田正馬によって初めて提唱されました。森田は当時「神経質」と呼ばれていた一連の症状の中に、他者との関係性に過度に不安を感じる患者がいることに着目しました。

1930年代には、森田の弟子である内沼幸雄らによって対人恐怖症の研究が進められ、その臨床像が明確化されていきました。内沼らは対人恐怖症を「他者に対する過敏な意識と、それに伴う不安・緊張・恐怖感によって特徴づけられる神経症」と定義しました。

当初は日本固有の精神疾患と考えられていた対人恐怖症ですが、1980年代以降、欧米の研究者も注目するようになりました。1994年に発行されたDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニュアル第4版)では、対人恐怖症が「文化関連症候群」の1つとして収録されました。

2000年代に入ると、対人恐怖症の症状が日本以外の国々でも報告されるようになり、文化普遍的な側面も指摘されるようになりました。特に東アジアや東南アジアの国々では、対人恐怖症に類似した症状を持つ患者が多く見られることが分かってきました。

対人恐怖症の主な症状

対人恐怖症の中核的な症状は、以下の4つに要約できます:

  1. 自分の態度、振る舞い、外見などが社会的場面で不適切であるという感覚
  2. 上記1)に起因する羞恥心、当惑、不安、恐怖、緊張などの持続的な感情
  3. 1)と2)のために健全な人間関係が築けないという悩み(他者から受け入れられない、嫌われる、避けられるなど)
  4. 苦痛を伴う社会的・対人的状況の回避(ただし、回避したくないという葛藤も伴う)

これらの症状により、対人恐怖症の患者は日常生活に大きな支障をきたすことがあります。例えば:

  • 学校や職場での人間関係に困難を感じる
  • 公共の場所に出かけることを極端に恐れる
  • 異性との交際や結婚に消極的になる
  • 引きこもりがちになる

また、対人恐怖症に特徴的な身体症状として、以下のようなものが挙げられます:

  • 赤面
  • 発汗
  • 手足の震え
  • 動悸
  • 吐き気
  • めまい

これらの身体症状は、社会的場面で不安が高まった時に顕著に現れます。患者は、これらの症状が他者に気づかれることをさらに恐れるという悪循環に陥りやすいのが特徴です。

対人恐怖症のサブタイプ

対人恐怖症には、いくつかのサブタイプが存在します。主なものとして以下の4つが挙げられます:

  1. 赤面恐怖(せきめんきょうふ) 顔が赤くなることを極端に恐れるタイプです。赤面することで他者に不快な思いをさせるのではないかと考えます。
  2. 醜貌恐怖(しゅうぼうきょうふ) 自分の容姿に欠陥があると思い込み、それが他者の目に映ることを恐れるタイプです。実際には他者が気にも留めないような些細な特徴を過大に評価してしまいます。
  3. 自己視線恐怖(じこしせんきょうふ) 自分の視線が他者を不快にさせるのではないかと恐れるタイプです。アイコンタクトを極端に避けたり、視線をさまよわせたりする傾向があります。
  4. 自己臭恐怖(じこしゅうきょうふ) 自分の体臭が他者を不快にさせるのではないかと恐れるタイプです。実際には周囲が気づかないような微かな匂いを過剰に気にしてしまいます。

これらのサブタイプは互いに重複することもあり、1人の患者が複数のタイプの症状を示すこともあります。

また、対人恐怖症は「神経症型」と「妄想型」に大別されることもあります:

  • 神経症型: 自己の欠点や不適切さを意識し、それに伴う不安や恐怖を感じるタイプ。現実検討能力は比較的保たれています。
  • 妄想型: 自己の欠点が他者に迷惑をかけているという確信(妄想的確信)を持つタイプ。現実検討能力が低下しており、治療が困難な場合があります。

DSM-5における対人恐怖症の位置づけ

DSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版 改訂版)では、対人恐怖症(Taijin Kyofusho)は「文化関連症候群」として扱われています。DSM-5-TRでは、対人恐怖症を以下のように記述しています:

対人恐怖症は、社会的状況における自身の外見や行動が不適切または他人に不快感を与えるという思考、感情、または確信に基づく、社会的状況に対する不安と回避を特徴とする日本の文化的文脈で見られる症候群です。

DSM-5-TRでは、対人恐怖症に以下の2つの文化関連形態があるとしています:

  1. 「過敏型」:社会的相互作用に対する極度の社会的敏感性と不安を特徴とします。
  2. 「加害型」:主な懸念は他人に不快感を与えることです。

さらに、DSM-5-TRは対人恐怖症の変種として以下を挙げています:

  • 顔面紅潮に対する主要な懸念(赤面恐怖)
  • 不快な体臭がするという懸念(自己臭恐怖)
  • 不適切な視線(目を合わせすぎる、または目を合わせなさすぎる)に対する懸念(自己視線恐怖)
  • 固い、または不器用な表情や体の動き(例:硬直、震え)、または体の変形に対する懸念(醜形恐怖)

DSM-5-TRは、対人恐怖症がDSM-5-TRの社交不安症よりも広い構成概念であることを指摘しています。対人恐怖症には、体醜形障害、嗅覚関連障害、妄想性障害の特徴を持つ症候群も含まれるとしています。また、懸念が妄想的な性質を持ち、単純な安心や反例に対して反応が乏しい場合は、妄想性障害を考慮すべきとしています。

この記述は、対人恐怖症が単独の診断カテゴリーではなく、文化関連症候群として扱われていることを示しています。また、社交不安症との関連性を認めつつも、より広範な症状や特徴を含む概念として位置づけられていることがわかります。

対人恐怖症と社交不安症の違い

対人恐怖症と社交不安症(社交恐怖)は、しばしば混同されることがあります。確かに両者には多くの共通点がありますが、以下のような違いも存在します:

  1. 文化的背景
  • 対人恐怖症: 主に日本を含む東アジアの集団主義的文化圏で見られる傾向があります。
  • 社交不安症: 欧米の個人主義的文化圏を中心に研究が進められてきました。
  1. 恐怖の焦点
  • 対人恐怖症: 他者に不快な思いをさせることへの恐れが中心です。
  • 社交不安症: 自分が恥をかくことや他者から否定的に評価されることへの恐れが中心です。
  1. 罪悪感の有無
  • 対人恐怖症: 他者に迷惑をかけているという罪悪感を伴うことが多いです。
  • 社交不安症: 罪悪感よりも、自尊心の低下や自己否定的な思考が特徴的です。
  1. 妄想的側面
  • 対人恐怖症: 妄想型のサブタイプがあり、より重症化しやすい傾向があります。
  • 社交不安症: 一般的に現実検討能力は保たれており、妄想的な確信は見られません。
  1. 身体症状の捉え方
  • 対人恐怖症: 身体症状(赤面、発汗など)が他者に不快感を与えると考えます。
  • 社交不安症: 身体症状が自分の不安を他者に悟られてしまうと考えます。

ただし、近年の研究では対人恐怖症と社交不安症の共通点も多く指摘されており、両者を明確に区別することは難しいという見方も出てきています。

参考文献

American Psychiatric Association. (2022). Taijin kyofusho. In Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed., text rev.).

Haibloom, S. (2012). Taijin Kyofusho: What clinicians need to know [Doctoral project, Alliant International University]. ResearchGate.

Kleinknecht, R. A., Dinnel, D. L., Kleinknecht, E. E., Hiruma, N., & Harada, N. (1997). Cultural factors in social anxiety: A comparison of social phobia symptoms and Taijin Kyofusho. Journal of Anxiety Disorders, 11(2), 157-177. https://doi.org/10.1016/S0887-6185(97)00004-2

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