前回は、ADHDのAさんの例をもとに、ADHDを持つ人が陥りやすい問題と対処法について、いくつかのヒントをご紹介しました。今回も前回に引き続き、ADHDの人が1日を快適に過ごすためのタスク管理のヒントをご紹介していきます。
「会社員」Aさんの毎日の悩み
Aさんは、やるべきことがいつも目の前に見えていないと、何をするつもりだったのかを忘れてしまいがちです。仕事を始めようと机に座ったものの、自分が何をするつもりだったのかを忘れてしまい、何から手をつけようか?と考えることから始めなくてはいけません。
また、集中して作業していると、それだけに夢中になってしまって他の作業が進まなくなってしまうこともしばしばです。そうして残った仕事を目の前にすると、どれも気の進まない面倒な作業だと思ってしまい、手をつけるのが億劫になります。先延ばしにしているうちに、いつもギリギリになって慌てて仕上げるか、締切に間に合わなくなることも。やる気が出ない仕事のときは、しばらく作業をしていても、気がつくと他のことに気を取られていることもあり、すべての作業を終えるのに1日の時間が足りなくなってしまいます。
To-Doリストを上手く活用する
「何をすればいいか?」と忘れがちな問題に対処するには、To-Doリストの活用がおすすめです。スマートフォンのTo-Doリスト作成アプリやメモ帳を利用して、いつでもどこでも確認できるようにしておくと良いでしょう。
基本のリストの書き方として、箇条書きで小分けに書き出しておくことがまず大切です。「ゴミ出しをする」、「会社に向かう」、「メールを確認する」というように、タスクごとに一つ一つ箇条書きにして並べておきます。タスクが完了するたびに、斜線を引いたりチェックを書き込んで終了したことが目に見えるようにしておきましょう。この「タスクを斜線で削除する」ということが達成感を感じられる行動になって、「やる気」を出すきっかけになるかもしれません。
完了するのに時間がかかりそうな大きなタスクは、内容を細かく分割してステップを多くしていくと良いでしょう。例えば、「説明会の資料を作成する」という大きなタスクが合った場合、その資料が完成するまでに必要な道のりを、細かいタスクに分けて書き出していきます。資料を作成するための「資料集め」が必要なら、それがまず1つ目の細かいタスクとしてあげられます。資料を確認してまとめるという作業があるとすれば、「資料の確認」と「グラフの作成」というタスクができます。このように、大きなタスクを完了するには何をするのが必要なのか?と想像していき、細かいタスクを並べ、それぞれの締め切り時間を考慮しながら全体的に「説明会の資料作成」というゴールが目指せるようにしていきます。
スマートフォンアプリのリマインダーをTo-Doリストとして活用すると、締め切り時間を忘れないようにアラームを設定しておくことができます。「始めよう」と思った時間に鳴らすよう設定したり、「この時間までに始めていなかったら困る」という時間を知らせてくれるように設定することで、リストの確認そのものを忘れてしまうということを防ぐことができるかもしれません。
常に「ご褒美」を用意しておく
ADHDの人は報酬遅延の問題を抱えているため、目先の報酬に弱いという傾向があります。目の前の小さな報酬を我慢していれば、少し遠くの未来に大きな報酬が得られるといった状況の場合にも、目の前の小さな報酬を我慢することができないのです。
また、たくさんのタスクが目の前にあると何から手をつけていいか分からなくなって混乱してしまうという問題もあります。手を出しづらい億劫なタスクをついつい後回しにして、やりやすいタスクから手を出していくうちに集中してしまい、後回しにしていた大変なタスクが残ってしまった…なんてことも。
この状態でやる気を出すには、やるべきことに取り組むための「ご褒美」を、小分けにしてこまめに用意しておくことで対処していきましょう。「やることリスト」の計画を立てる時に、「やること」そのものを「ご褒美」として考えていくと、自分をうまくコントロールしていけるかもしれません。
先ほどは、1日の「やるべきこと」を確認するためのTo-Doリストの作り方について説明しましたが、同時に同じ要領で「やりたいことリスト」を作成しておくと良いでしょう。
例えば、「メールチェック」「資料の確認」「資料作成」「資料集め」とある場合、「メールチェック」が得意で好きな作業だとするならば、これを「ご褒美タスク」とします。このタスクをこなす前に、少し面倒な他のタスク(例えば「資料集め」)を終わらせてしまいましょう。さらに、その面倒なタスクをこなすための「ご褒美」を用意しておくというのもいいかもしれません。(例えばコーヒーブレイク、好きな飴を食べるなど)
また、同じように頑張る仲間を見つけて一緒に取り組んでみたり、取り組む場所を可能な限り工夫してみるというのもいい方法です。仲間と取り組むというのも、近くに見つからなくてもSNSで探すということもできます。「これから作業を開始します」と宣言することで、お互いに見られているという意識が働いてやる気が上がったり、達成を認め合えるという「ご褒美」を感じることができます。
「ながら作業」も取り入れてみる
報酬遅延の問題は、他にも「単調で根気がいる作業が苦手」といったような苦手も引き起こします。先程あげた「少し困難なタスク」に取り組む時も、なぜ手を出しにくいのか?と考えてみると、コツコツした作業が嫌いだったり、飽きがきやすくて集中が途切れやすく面倒だから、という理由が分かってくることも。
これには、普通なら行儀が悪いとかだらしがないと注意されそうな「ながら作業」をむしろ積極的に取り入れていくことで解決できそうです。
例えば、単調でコツコツと取り組まなければならないタスク(例えば「折り込み郵便物の作成」など)に手をつけるときは「音楽を聴きながら」という「ながら」を取り入れてみます。自分にとって快適な刺激を与え続けることが報酬になり、「郵便物の作成」をする時間=「好きな音楽を聞ける時間」だと脳に記憶させてしまうことで、取り組む時の億劫さが減らせるかもしれません。
他にも、興味のあるタスクをいくつか同時並行してこなすことができれば、どれか1つのタスクで集中が途切れても、同時並行して進めているもう1つの作業に移ればいいと考えることができるため、少しずつ同時に進めていくうちに完了することができるかもしれません。
「小さな達成感」を常に味わえるようになる
To-Doリストやスケジュール帳を管理するときは、あまり「できなかったこと」にこだわらず、「できたこと」を喜べるように考えていきましょう。「やることリスト」を作ったら、達成するたびにシールを貼ったり、斜線で消していくことで、「やり終えた」という達成感を視覚的に感じることができます。やり終えることができなかったことは、次のタイミングで行うタスクとして新しく更新していったり、完全にすべてが完了していないと思ったとしても、「できた」ということにしてしまうことで、だんだんと達成を感じやすくなっていきます。
1日のタスクをこなしていくことをRPGゲームのように捉えて、一つずつのクエストをクリアすることができたと楽しく考えていくのもよいでしょう。
「やり方」にこだわらない
発達障害を抱える人は、小さい頃から周りとは違う失敗を繰り返し、怒られ続けて育ってきた人が少なくありません。そのため、「自分はこれでいいのだ」と感じる自己肯定感が非常に低くなってしまっている人もいます。自分を自分で肯定してあげることができないと、実は達成していることでさえ、「これくらいしかできなかった」と感じ、達成感を感じることができなくなってしまいがちです。
この状態を繰り返し感じ続けて「自分は何をやってもダメだ」「どうせうまくいかない」と最初から落ち込んでしまい、タスク管理をしようにも何を挑戦するにしても億劫になってしまうこともあります。
自分が心から「やりたい」と思った作業から開始したり、「できた」ことをひとつひとつノートに書いていくのも良い方法です。「やらなくてはいけない」と思う作業を始めてしまうことで、その作業が達成できなかった時に「やっぱりできなかった」と思って落ち込むことのないよう、取り組みやすくて「やりたい」と感じるものを最初に始めてみます。これは、いろいろな課題を始めるときの「滑り出し」として有効です。始めたいけど始められない…というときには、小さな理由をつけて動き始めてしまうことで、その後もスムーズに動くことができるようになります。その「小さな理由」という原動力が、心から湧き上がる「やりたい」という気持ちなのです。小さな課題というのは新聞を読むことでもいいし、窓を開けるという課題でも構いません。やり始める時の「心の負担」が軽いものから優先的に取り組むのがコツです。
自分を管理しようとする前に、まず自分の心を大切にして自分のやり方で動いてみるという勇気も大切なことなのです。