強迫性緩慢

強迫症(強迫性障害)
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強迫性緩慢 Obsessional slowness は、日常生活のあらゆる動作を繰り返し行い、日常生活上多大な支障が生じている特徴を持つ。繰り返しが生じる動作としては、洗面、食事、排泄などの動作が多いようだ。動作としては、動作緩慢な場合が多いが、必ずしも動作が緩慢なわけではなく、ある程度の動作のスピードがある場合もある。また、繰り返しが生じる活動と生じない活動があり、生じない活動の場合は、ほぼ症状が見られない場合がある。

強迫性緩慢において、強迫観念は明確ではない場合が多い。本人も、強迫観念を話せない場合が多い。「なにか気になる」「なんか嫌」等の発言は聞かれることがある。強迫性緩慢は、確認や洗浄強迫で始まることが多いが、本体は確認強迫や洗浄強迫ではない。普通のOCDの場合、強迫観念に関わるような刺激が増えると、強迫行為の強度・頻度がます。例えば、目の前で汚れたくつ下で廊下を歩くのをみると、その廊下に触れなくなる。テレビでプラグの上に積もったほこりが原因で火災が起こった等の情報を得ると、確認強迫が悪化するなどの現象が起こるが、強迫性緩慢においては、その影響は少ない。そのため、家族は何が嫌なのかがみていてよくわからないという状況に陥る。

強迫性緩慢は、強迫観念こそ明確ではないが、「納得する感覚(まさにぴったり感覚:just right feeling)」を求め、この感覚が得られないと、この感覚を得ようとして繰り返しの動作を行う。強迫性緩慢は、さわった時の感覚にこだわったり、動作などの正確性(むしろ、本人の満足が得られるようなやり方)、ものの対称性、正確性などにこだわる傾向がある。また、巻き込みが多くの場合重度であり、家族が言うとおりの様式で接しない場合は、かんしゃくを起こす場合が多い。

このこだわりのために自閉症スペクトラム症という診断が付いている場合がある。確かに自閉症スペクトラム症の中でも知的に重度な方は、道順を変える、スケジュールを変更するということをすればパニックとよばれるかんしゃくを起こす。しかし、アスペルガー症と呼ばれるような知的に高い自閉症スペクトラム症の方は、スケジュールの変更等でパニックに陥ることはあっても、巻き込みや、何度も繰り返す行為はみられないし、コミュニケーションの質的異常もない。

また、中尾智博先生は、浮き沈み(fluctuation)と呼ばれるような、動作が一時的にスムーズになっても、数日寝込んでしまい動けなくなるような状態になる事例が多いことを指摘している。

強迫性緩慢の治療としてはERP(曝露反応妨害法)があまり効果ないと言われている。理由としては、通常のERPでは本人の「納得がいかないやり方」に対してエキスポーズすることができないためである。また、本人が「納得いくまで、やって何が悪いんだ」と言う考えの方が多いため、なかなか治療に乗せることが難しく、また入院治療を行なっても退院するともとに戻ってしまう方が多いようだ。

強迫性緩慢の心理教育としては、やはりJust right feelingについての心理教育をしないといけないと思われる。本人は、洗浄強迫や確認強迫だと思っている場合が多い。しかし、それは形だけであり、「納得がいくまで、単純な動作を繰り返す」というところが、病気の本体であると説明する。

その上で、Just right feelingが関与しているような行為を一つ一つ取り上げ、中途半端にしていく。例えば、服装や、ペットボトルや蛇口を中途半端にする。髪型や靴紐、持ち物もぐちゃぐちゃにして、気持ち悪い感じを味わってもらう。

次に、トークンエコノミー法と呼ばれる、スタンプを貯めると何かできる…のような、治療のモチベーションをあげるような試みが必要だと思われる。これは、強迫性緩慢の治療を行なっていくと、日常の生活が早くなり空き時間が増え、その間に強迫行為をしないようにする目的もある。

また、マインドフルネスの指導も必要だと思われる。マインドフルネスは、強迫性緩慢の場合、注意の範囲を広げるという感覚で指導をする。例えば、強迫性緩慢の方は、触っているけれど、頭の中だけで触っていると感じている状態になっている場合がある。そのため、五感の全てに注意を向けて歩いてみたり、色々なものをさわってその感触を受信する練習をする。もちろん、この場合も反復行動が起きないように反応妨害をする必要がある。

強迫性緩慢の治療としては、slow mindful repetitionと呼ばれる、動作を極端に遅くして、マインドフルに動作を行う(その行為のあらゆる感覚に注意を向ける)という介入を行う。SMRでは、本人の納得がいく繰り返しを妨害しつつ、納得がいかない感覚にエクスポージャーを行い、同時にマインドフルネスを訓練させるという方法だ。この方法を用いて、エクスポージャーを行う。

また、日常生活動作では、お手本を示し、そのお手本を忠実に守らせる。強迫性緩慢の方は、色々な動作を付け加えたり、するので、そのたびにそれを正し、お手本の動作にさせる。このお手本の動作も、本人の言いなりに作ってはいけない。ある程度、簡素化したものにする必要がある。
この日常生活動作の練習をしたあとは、ペーシングと呼ばれる、日常生活の動作を時間を決めて行う練習をする。例えば、洗面には5分しかかけない等。

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