発達障害の人のための知能検査の読み方

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最近、ブログなどで知能検査の読み方をあげている当事者の方も多いです。知能検査の所見をもらいそのまま家で読んでいる方も多いと思います。しかし、結構、解釈として大丈夫かなと思うものも多いのです。そこで、今回は、知能検査(WAIS)を中心に知能検査の読み方、誤解について触れてみたいと思います。

そもそも知能検査とは?

現在、知能検査と呼ばれるものは幾つかありますが、子供版ではWISC(ウィスク)、大人版ではWAIS(ウェイス)が多いです。現在、供に第四版が出ています。

知能検査は、もともと発達障害を検査するために作られたわけではありません。人によって勉強が早く進む人もいれば、遅い人もいる、作業をテキパキする人もいれば遅い人もいる。この個人差を調べるにはどうしたらいいんだろう?という発想のもとに作成されました。

知能と言えば、「沢山話せる人、難しい言葉を喋る人が知能が高そう」というイメージがあるかもしれません。しかし、研究を進めるうちに知能とは言語だけではなく、様々な要素があることが分かってきます。そこで知能の様々な側面を図れるようにしようという目的で制作、改定されているものが知能検査です。

ウェクスラー式の知能検査では、合計得点の全検査IQ以外に、4つの知的能力が測定できます。()内はWAIS-Ⅲの表記です。ここでは、成人の方を中心とした能力の解説をしていきます。児童の場合は、学習に関する側面を中心に解釈します。

  • 言語理解
  • 知覚推理(知覚統合)
  • ワーキングメモリー(作動記憶)
  • 処理速度

全検査IQ(FSIQ)とは?

知能検査における最も重要な数字です。この数値だけで判断できるわけではありませんが、大雑把に考えると次のようになります。

  • 121以上:勉強や仕事を覚えることを積極的にしなくても覚えることができる
  • 80~120:平均的な範囲
  • 70~80:その学年、年齢にみあった学力・仕事ができない。学力であれば、1学年下の勉強が分かる。
  • 69以下:知的障害の範囲

という区分になります。ここで、もう一つ大事なのは、パーセンタイル順位というものです。このパーセンタイル順位は、病院などでもらった結果に書いてある場合と書いていない場合がありますがとても重要な数値になります。

パーセンタイル順位とは、「100人でテストをしたときに、あなたは成績が悪い人から順番に数えて○番目ですよ」という数値です。なぜ、これが大事かと言うと、IQやその他の指標が80~120に入るからといって、その能力でつまづきがないとは言えないからです。

例えば、「IQが85でした」と言われると平均の範囲だと思うかもしれません。しかし、「あなたの成績は、100人中、下から16番目でした」と言われると印象が変わると思います。そこで、このパーセンタイル順位も一緒に考えていく必要があります。特にIQ80代の人は、このように得点とパーセンタイル順位の印象がかなり変わると思います。

言語理解指標(VCI)

この指標は、言葉を理解すること、表現することに関する指標です。この指標が高ければ、難しい言葉、難しい話も理解できますし、低ければ理解できないということになります。学校の勉強と非常に似ています。ただ、VCIが高くても勉強しなければ成績が悪いということが起こりえます。

ここで注意してもらいたいのが、いわゆるコミュニケーションの能力とは違うということです。VCIが低くても愛想がよく人との人間関係を上手に作る人もいます。ASDでもこの指標が高い人もいます。

一方で、VCIが70になると、日常的な会話などはついていけますが、制度や手続きの話などの難しい話になるとついていけなくなります。「コミュニケーションが上手にとれない」という困りごとの背景にはこの指標の低さが関係していることがあります。

知覚推理指標(PRI)

この指標は、目で見たものの関係性を理解する力です。実際の仕事などでは、パソコンの使い方を目で見て理解する、説明書などの図を見てなにがかいてあるのか理解するなどの能力と関係があります。

この指標には、「理解の速さ」は関係ありません。現在の検査では、理解の速さに関する影響が少し残っていますが、今後の改定と共になくなっていく予定です。

この指標が低いと機械の操作が分からない、図面などをみてもなかなか書いてあることが理解できないということにつながっていきます。

ワ-キングメモリー指標(WMI)

この指標は、一度に処理できる情報の多さと考えるとわかりやすいと思います。作業に使う机の広さと似ています。机が広ければ、色々なメモや本を広げたりしながら作業ができます。しかし、机が狭ければ本を読むなら本を読む、パソコンをするならパソコンをするなどの一つの作業しかできません。この机の広さがワーキングメモリーのイメージです。

ワーキングメモリーが低いと話をきいているときに内容が抜けていきます。話をきいているときは、次々に出てくる情報を頭の中で覚えて整理しながらきいているのです。そのため、話が長くなるほど頭の中には沢山の情報が増えていきます。ワーキングメモリーがいっぱいになると、それ以降の情報は覚えきれずに消えて覚えられないということになります。

また、計画を練ったりすることも苦手になってきます。計画を考えるときは、一度に色々な情報をまとめて考える必要があります。ワーキングメモリーが低いと、参考にできる情報量が少ないので計画を立てるのに時間がかかるのです。例えば、2泊3日の旅行の計画をてる場面を考えてみましょう。ワーキングメモリーが高い人は、全てを頭の中に思い浮かべながら立てられるかもしれません。一方、ワーキングメモリーが低い人は、紙などに書き出したり整理しながらでないと考えられない、わすれてしまうなどが起きやすいといえます。

処理速度指標(PSI)

この指標は、頭の回転の速さ、作業をテキパキこなすスピードだと思ってもらうとよいです。

一旦、作業のやり方を覚えると後は、その作業を素早くこなせるかどうかにかかってくると思います。処理速度はこのような単純作業のスピードに関わってきます。

実際の仕事では事務作業等の速さ、検品などのチェックの速さ、流れ作業などでの作業の速さなどに影響してきます。この指標が低いと疲れやすいという特徴もあります。

ちなみに処理速度は各種精神疾患で最も低下しやすい指標になります。

高い低いはどこをみるの?

高い低いを見る基準は2つあります。①同年代の人と比較して高い/低いのか、②自分の中で高い/低いのか(得意/苦手)です。①がいわゆる絶対的な基準になります。全検査IQ、合成指標の数字が高いか低いかをもとに判断していきます。②は、個人内で高い数値、低い数値を比較して分析していくことになります。ただ、②はしなくてもそこまで困らないと思いますし、②は解釈上の間違えも起こりやすいので要注意です。

下位検査はみなくていいの?

全検査IQ、4つの合成指標が知能検査を把握する上ではとても大切です。下位検査ごとにはあまり細かく解釈したり知る必要はありません。

下位検査は、それぞれに固有の能力を計測していますが、なんの能力を図っているかは厳密には分かっていません。というのも一つの検査で単一の能力を図ることが不可能なのです。例えば、「記号」と呼ばれる記号を変換して書き写す課題では、視覚性の短期記憶、処理の速度、筆記の速さ、眼球の動かし方等様々な能力が関係してきます。それぞれの細かい能力ごとに得意不得意があるでしょう。視覚性の短期記憶が苦手だけど眼球の動かし方が速いために得点が高い人もいるかもしれません。しかし、このようなことは単一の検査ではわからないのです。

そこで、知能検査では複数の検査を使って、ある程度、知能検査が意図した能力を安定して図れるように誤差を相殺しようと考えているのです。そのため、一つの合成指標を測るために、1つ2つの検査を用いるのです。

下位検査を細かく考えるくらいであれば、発達障害に特有の行動特性や、知能検査で測定できない発達障害の能力について考えるほうがメリットは大きいのです。

知能検査から行動は予測できない

知能検査の誤った解釈の多くは、知能検査の結果のみからその人の行動を予測しようとするために起こります。例えば、『○○の点数が高いから/低いから、勉強ができない』などです。これは、成り立ちません。

最初に、自分の困っている現象をしっかりととらえて、その背景に知的な能力が関わっているのかと考えていくことが必要な流れになります。

発達凸凹と知能検査の凸凹は違う

発達凸凹と知能検査の凸凹は全く関係ありません「知能検査のプロフィールが凸凹 ≠ 発達凸凹がある」なのです。実際に知能検査の結果が全く凸凹していない発達障害の方もいます。定型発達なのに凸凹している人もいます。

では、知能検査の凸凹はどう使うの?と思われると思います。知能検査の凸凹は、得意な能力と苦手な能力を見つけるために使います。子供さんの場合は、学習面によく現れます。成人の方の場合は仕事の方面に現れます。

○○と✕✕の能力に差があるのはおかしいの?

例えば、言語理解と処理速度に大きな点数の開きがある場合、その差をどう考えればいいのでしょうか? 知能検査のマニュアルを用いると、「その得点の差が誤差の範囲ではなく、統計的に意味がある数値の差なのか?」を検討できます。ディスクレパンシーと書いてあったり、統計的に有意な差があると書かれているものもあります。

しかし、統計的に有意な差がある、ディスクレパンシーがあるからといってすぐにおかしいとはなりません。というのも、状況によって有意な差が出やすい状況があるからです。例えば、IQが120を超える指標を持っている方は、必然的にディスクレパンシーが出現しやすくなります。そうなると、これはすぐにおかしいとは言えなくなります。知能検査のマニュアルには、その差が出やすいかどうかの出現頻度が書いてあります。本来は、この出現頻度が低い場合(10~15%以下)にその差に注目する必要があります。

このような事情を考慮することは難しく、おそらく病院でもらう所見には出現頻度は書かれていないことが多いと思うので、○○と✕✕の差はそれほど気にしなくてもいいと思います。

知能検査の結果によって、むいている仕事があるのか?

知能検査の結果からは、予想できません。知能検査の結果は、あくまで仕事という状況設定ではない状態で測定しているのです。例えば、知能検査の結果、処理速度が高いからと事務作業をさせたとして、単純作業は飽きてしまって続かないかもしれません。言語理解が高いから接客に向くかと思えば、ASDのコミュニケーションの問題があり接客には向かなかったということもありえます。

このように知能検査で測定している能力は、仕事や生活でもちいられている能力の一部分なのです。

自分がどの仕事に向いているかどうかは、知能検査の結果を参考にしながら、実際に仕事を体験してみて評価する必要があります。そのためには、職能評価という方法もあります。

知能検査で発達障害が診断できるのか?

まず、これがとても多い誤解です。知能検査のみでは発達障害の診断はできません。今の所、発達障害の診断ができる単一の検査はありません。ADHDであればCAARS、ASDであればADI-R、ADOS-2が知能検査よりも発達障害の診断に関する情報を集められる検査になります。しかし、これらの検査でも絶対にこの検査の結果、発達障害であるとは診断できないのです。現在のところ、発達障害の診断は、これらの検査と問診による生活状況の聞き取りによって行われます。

典型的なADHD,ASDのプロフィールはあるの?

ないこともないですが、「このプロフィールだとADHDで間違いないね」というプロフィールはありません。理由は、上と同じように知能検査の結果からは発達障害とは診断できないからです。

例えば、ワーキングメモリーの得点が高いADHDの人もいますし、低い人もいます。そうすると、ある検査の得点が高いからといってADHDだとは判断できないのです。

また、ADHD、ASDの症状と知能検査で図る能力は似ているようですが全く違う側面です。ADHD、ASDの認知的な特性は少なくとも知能検査では拾うことはできません。

ADHDで落ちやすい能力

ADHDでは、ワーキングメモリーと処理速度が落ちることが多いです( Theiling,2014; WISC-IV Technical report #3)。アメリカの一般的な心理検査の教科書(Essentialsシリーズ)では、処理速度が落ちると書かれています。

もともと、ADHDはワーキングメモリーの低下が指摘されていました。ただ、ワーキングメモリーはADHDの多動・衝動性の重症度とは関連していないということも分かっています(Coghill, 2014 )。

まとめると、ADHDの知能検査ではワーキングメモリー、処理速度が落ちやすいといえます。

ASDで落ちやすい能力

ASDはかつて、広汎性発達障害として、または高機能自閉症、アスペルガー症候群として研究されてきた経緯があります。 言語能力が低いASDを高機能自閉症、言語能力が高いASDをアスペルガー症候群と定義して 研究が行われていたこともあり、過去の論文の意見が割れています。今後は、DSM-5に伴い自閉スペクトラム症としての疫学研究が積み上がっていくと思います。そして、その基準になるのがADI-R、ADOSと呼ばれるASDの検査になります。

Oliveras-Rentasら(2013)では、そのような新しい基準で調査研究を行いました。その結果、ASDは合成指標では処理速度が低い。下位検査では、符号、理解、記号探しが低く、類似、視覚類推が高いことを見つけました。おそらくこの結果が最も信頼できると考えられます。

Mayes & Calhoun(2008)では、高機能自閉症は、ワーキングメモリー、処理速度が低い。下位検査では、類似、単語、積木模様、絵の概念、視覚類推が高い。語音整序、数唱、符号、記号探しが低い。

Naderら(2015)では、高機能自閉症は、下位検査として理解、数唱、語音整列、符号が低く、積み木、視覚類推、絵の概念が高い。アスペルガー症候群は、類似、単語が高く、符号、視覚類推が低い。

Essentials of WAIS-IVでは、合成指標は処理速度が低下すると書かれています。下位検査として高いのは、知識、単語、積木模様、低い検査として記号、符号、絵の抹消があげられています。

まとめると、下位検査はおいておいて、ASDでは処理速度が落ちやすいという特徴が挙げられます。また、「言語能力が高い」という表現は、自閉症とアスペルガー症候群を分けていた自体の研究から考えられたことです。

○○と✕✕の下位検査が低いから…□□という状態になる?

このような所見や説明をされることが残念ながらありますが、これはおすすめできません。このように複数の下位検査を組み合わせて解釈するときに最も優先されるのは合成指標になります。もっと言えば、このように下位検査を独自に組み合わせて解釈を行うことにあまり根拠はありません。

例えば、「絵画配列と類似が低いから、場面が読めない」、「積木模様と符号、記号が低いから集中力がない」などの解釈は明らかに間違っています。

絵画配列が低いと状況が読めない?

これは、ASDの項目を見てみれば、すぐに嘘だと分かります。そのような研究はありません。

ちなみに、絵画配列は検査としては、部品がたくさんあるために落としたりなくしたりされたり、検査者がしっかりとした方法でやっていないなどの問題から補助検査にまわされることになりました。

理解が低いと状況が読めない?

これもありません。そのような結果を出している研究は少ないです。また、WAIS-IVでは、理解は補助検査になりあまり実施されることがなくなると思います。WAIS-IVを出しているPersonのサイトには、”知識と理解のどちらがより能力の違いを検出できるテストかを検証したが、どちらもあまり変わらなかった。最終的には時間の短縮のために知識を採用した”という趣旨のことが書いてあります。つまり、理解固有の能力というのはほぼないのです。

また、状況把握には様々な能力が関わってきます。それを「理解」という単一の検査で予測しようというのは無理があります。

類似が低いと抽象概念が分からない?

似たようなもので類似が低いから、状況を読むことが苦手という解釈も見かけます。しかし、これらもありえない解釈になります。ASDの研究をみると分かる通り、ASDでは類似が高いこともありえるからです。

まとめ

かなりくどくどと書いていますが、知能検査に関してまとめると以下の3点です。

  • 知能検査は、発達障害とは関係のない能力だが、生活をしていく上でとても大事な能力の様々な側面を測っている。発達凸凹≠知能検査の凸凹です。
  • 知能検査からは発達障害に関連するような行動の特徴を予想することはできない。実際に日常生活で起こっていることは知能検査よりさらに複雑な状況
  • 知能検査の解釈は非常に難しく、間違った解釈も見られる。これらの解釈に共通していることは、下位検査を勝手な組み合わせによって独自の解釈をしたり、点数から行動を予測しようとしているために起こる

参考文献

  • Johanna Theiling, Franz Petermann 2014 Neuropsychological Profiles on the WAIS-IV of Adults With ADHD Journal of Attention Disorders
  • Paul E.Williams, Lawrence G. Weiss, Eric L. Rolfhus 2003 WISC-IV Technical report #3
  • Elizabeth O. Lichtenberger, Alan S. Kaufman, Nadeen L. Kaufman 2009 Essentials of WAIS-IV Assessment John Wiley & Sons, Inc
  • Coghill DR, Seth S, Matthews K 2014 A comprehensive assessment of memory, delay aversion, timing, inhibition, decision making and variability in attention deficit hyperactivity disorder: advancing beyond the three-pathway models. Psychol Med. 2014 Jul;44(9)
  • Anne-Marie Nader, Patricia Jelenic, Isabelle Soulières 2015 Discrepancy between WISC-III and WISC-IV Cognitive Profile in Autism Spectrum: What Does It Reveal about Autistic Cognition? PLoS One. 2015; 10(12):
  • Mayes SD1, Calhoun SL. 2008 WISC-IV and WIAT-II profiles in children with high-functioning autism.J Autism Dev Disord. 2008 Mar;38(3):428-39.
  • Rafael E. Oliveras-Rentas, Lauren Kenworthy, Richard B. Roberson, III, Alex Martin, and Gregory L. Wallace 2012 WISC-IV Profile in High-Functioning Autism Spectrum Disorders: Impaired Processing Speed is Associated with Increased Autism Communication Symptoms and Decreased Adaptive Communication Abilities J Autism Dev Disord. J Autism Dev Disord. 2012 May; 42(5): 655–664.
  • ウェクスラー知能検査(研究版WAIS-Ⅳ)の活用ガイドライン
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