自閉スペクトラム症のコミュニケーション障害

自閉スペクトラム症
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自閉スペクトラムのコミュニケーション障害の最も中心にあるのは、心の理論障害だと言われています。

これは、あいての心の動きを読むことに障害があるという仮説です。

しかし、これは正確ではありません。

実際は、相手の心の動きが全く読めないわけではありません。

その解釈の方法が外れるという言い方が正しいと思います。

そして、多くの自閉スペクトラムの方は、相手の心の動きを読もうとして疲れている傾向にあります。

自閉スペクトラム症のコミュニケーション障害を考える上では、定型発達のコミュニケーションで何が起こっているかを知る必要があります。

定型発達のコミュニケーションでは、

  • 相手が言葉に出したことの意味と、その言葉を言ったことによって伝えたい意図の二つの情報がある
  • 相手の心情と自分が考えた相手の相手の心情(推測)が、同じかどうかをたえずモニターしている
  • 言葉(発言)は、出来る限り少ない発言にしたい
  • 相手は少ない言葉で多くを伝えたいと思っている

という現象が起こっています。これは、関連性理論と呼ばれる語用論の理論の前提です。

相手が言葉に出したことの意味と、その言葉を言ったことによって伝えたい意図の二つの情報がある

これは、難しい言葉では意味論と語用論と呼ばれるものです。

例えば、夫婦がいて、夫が「お茶」と言えば、『お茶を注いで欲しい』というメッセージになりますね。

このようにコミュニケーションを考えると、言葉そのものの意味(発話)と、その言葉を言うことによって伝えたい意図(発話意図)の二種類があります。

自閉スペクトラム症の人の心理教育でこの話をすると、多くの自閉スペクトラム症の方たちは分かってくれます。

言い換えれば、コミュニケーションには言葉と裏のメッセージがあることには気がついているのです。

この点は、非常に重要だと考えています。

相手の心情と自分が考えた相手の相手の心情(推測)が、同じかどうかをたえずモニターしている

これは、自閉スペクトラム症の人が苦手としていることです。

例えば、以下の会話を考えてみましょう

友人たちで花火大会にいく約束があったとします。AはBも誘われていると考えていたとしましょう。

A:「ねえ、今度、花火大会何着ていく?」

B:「花火大会? どうしたの急に?」

A:「うーん、いやもし行くとしたら、なに着て行くかなと思って…」

この時、Aの心情を括弧書きで書き足すと次のようになります。

A:「ねえ、今度、花火大会何着ていく?」 (Bさんは、花火大会に何着ていくのかな?)

B:「花火大会? どうしたの急に?」

A:「うーん、いやもし行くとしたら、なに着て行くかなと思って…」

(え!? 誘われてないんだ!? ヤバイ…誘われていないのバレそうだから、話題を変えよう)

このとき、AさんはBさんの反応によって、じつはBさんが誘われていないことを推測したことになります。

日常のコミュニケーションでは、たえずこのようなことが実は起こっています。

自閉スペクトラム症の人は、このように相手の考えていること・心の状態をアップデート(更新)していくことも苦手です。

言葉(発言)は、出来る限り少ない発言にしたい / 相手は少ない言葉で多くを伝えたいと思っている

これは、コミュニケーションの中では常に起こっています。

例えば、仲がいい人とのコミュニケーションでは、少ない言葉で色々なことが伝わりますね。

例えば、「お茶」といっただけで、お茶を注いでもらったりです。

逆に、話を聞く方は、『相手が少ない言葉で多くを伝えたい』という前提があるので、

「お茶」と言われても、お茶(を注いで欲しい) という意味が含まれているのだと推測します。

さて、自閉スペクトラム症の人は、どのように定型発達と違うのでしょうか。

今まで述べたような法則を自閉スペクトラム症の人に説明すれば、ほとんどの方は、その法則に気づいていらっしゃいます。

つまり、これらの法則には気づいているけれど、相手の考えていることを読み取るプロセスで問題が生じていると言えます。

定型発達の人は、実は上のようなコミュニケーションの流れを直感的に行なっています。

直感的に、相手の言葉と、その言葉を発した意図を読み取り、

新たな発言によって、相手の考えているだろうことを修正していきます。

しかし、自閉スペクトラム症の方は、論理的に推測していくのです。

では、論理的な推測を行うとどうなるのでしょうか?

実は、論理的に考えていった場合、その論理は経験や一般常識に頼ることになってしまいます。

直感的に考えていく場合は、相手を観察する・モニターしていくことになります。

例えば、「ずっと仲のいい友達でいたいな」と女性に言われたとします。

誰しも最初にこの言葉をきくと、『突然、なんだろう? 何を言いたいんだろう?』と考えますね。

その後に、『この言葉を自分に言う理由はなんだろう…』と相手を観察したり、相手の言った言葉や行動を思い返してひらめくのが定型発達です。

一方、自閉スペクトラム症の人は、「ずっと仲のいい友達でいたい」→「永遠に友達でいて欲しい」→「付き合いたい気持ちはない」

のように論理的に考えていきます。

定型発達の人に、『この発言をきいて、どうしてフラれたと思ったんですか?』と尋ねると、

意外に答えられなかったりします。「いや、そういう意味でしょ」などのように、考えた流れを明確化できない場合が多いです。

一方、自閉スペクトラム症の人は、論理的に考えているため、説明できることが多いのです。

続く

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