今回は、様々な治療技法の技法の使い分けについて、個人的な感想を元に比較してみたいと思います。この感想を読むに当たってのポイントになることがあります。
- 成人の場合を念頭にしている
- トラウマは複雑性の方が多い
- トラウマが複雑なほど、何が困っているのか分からなくなる
- トラウマの症状はフラッシュバックだけではない
です。このことが治療法の選択において非常に重要になってきます。
持続エクスポージャー療法(PE療法)
現時点では、PTSDに対して最もエビデンスがある治療法になります。マニュアル・ベースの治療法です。個人的には、非常に使い勝手が悪いです。というのも、自閉スペクトラム症、ADHDの発達障害に対応しづらい、単回性のトラウマを念頭に置いている、フラッシュバックを中心に考えているため、トラウマの他の症状にはあまり重点が置かれていないという点で非常に使いづらい方法ではあります。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)
現時点では、PE療法についでエビデンスがある治療法になります。標準的な方法はありますが、必ずしもマニュアルに沿って治療するわけではないので、様々な工夫ができる使い勝手の良さがあります。
個人的には、眼球運動は使わなくなりました。トラウマが身体的な問題からくる、発達障害の人にもEMDRを用いるという点から、バジーを使うことが増えました。Skypeではバタフライハグを用いることもあります。発達障害を持っている方には、かなり使い勝手がよい方法でもあります。あまり集中力や付加がかかりにくい工夫をすることができます。
よい点は、広範囲な問題の繋がりを明らかにできる点です。トラウマというのは、今までの人生の積み重ねの中にあります。その様々なものをすべて引き出していけるという点はよいと思います。
難点としては、もともと単回性のトラウマを念頭としているので、トラウマをトラウマだと認識して話せる人向けであることと、トラウマによる広範な症状を扱うには苦手な印象があります。その部分については、スキーマ療法など他の方法を併用して補うようにしています。
また、複雑性のPTSDであったり、性被害にかんするトラウマ、トラウマの既往があるPTSDなどの場合は、非常に治療が苦しくなるため、ボディコネクトセラピーなどの他の技法を用いたほうが安全です。標準的な方法では、「記憶を引き出される」という感覚になりやすく、それが苦しいという方もいます。
ホログラフィートーク
ホログラフィートークは、嶺先生が生み出した日本独自の治療法です。そのため、現在の所、RCTもなくエビデンスもありません。嶺先生の実践の中で生まれた方法と言えます。
ホログラフィートークのよいところは、困っている問題が曖昧でもよいという点です。特に最初に心理的逆転をチェックし、次にテーマを決めて治療するので、困っている問題をうまく話せなくてもいいという点がとても良いです。
また、幼少期のトラウマに焦点を当てているので、自分でも覚えていないようなトラウマが出てきます。複雑なトラウマを持っている場合は、過去のトラウマを忘れている場合も多いのでとてもよいです。
スキーマ療法では、ヘルシーアダルトモードという大人の自分を自分の中に作ることが非常に要になり難しくなるのですが、ホログラフィートークでは、治療中で作っていくので、ヘルシーアダルトモードを作っていくのが速いです。
トラウマが解消しない背景には、「葛藤」が関係している場合があります。トラウマが重症化するとその葛藤に対して解離が働くために自覚できなくなります。しかし、ホログラフィートークではイメージ同士の対話という形で、この「葛藤」を浮かび上がらせ、解消しやすいというメリットがあります。
難点としては、ホログラフィートークが催眠や言語的なやり取りにややウェイトがあるので、それが苦手な人には使いづらいという点です。発達障害の有無は特に大変だと思ったことはありません。また、フラッシュバックを解消したいという人の場合は、ホログラフィートークはフラッシュバック以前の記憶を治療するため、治療のフォーカスがずれるという問題もあります。
ホログラフィートークは加害者をイメージ化するため、突然のフラッシュバックを構造上防ぐようにはなっていますが、それでも身体的な反応が強い人達には難しいという問題もあります。
スキーマ療法
認知療法の研究から出てきた治療法で、ヤング先生が作った治療法です。エビデンスに基づいており、RCTなどがあります。
スキーマ療法のよいところは、認知行動療法の続きとしてできることです。今は認知行動療法を自習するツールもたくさんあるため、認知行動療法をやった人からすると次に進みやすい治療法だと言えます。また、早期不適応スキーマによるアセスメント、スキーマモードのモニタリング、スキーマモード・アプローチなどは非常に強力です。特に早期不適応スキーマなどのスキーマ・モード・アプローチのみを行うこともできます。
難点としては、非常に時間がかかるということです。通常の認知行動療法から始めようとすると1年はすぐに掛かってしまいます。これは、体感的にですが、他のトラウマ治療と比べても進むのが遅いような気がします。
また、ヘルシーアダルトモードが作りづらいという難点があります。ヘルシーアダルトモードとは、自分にとって理想の親です。非常に優しく自分のことを受け止めてくれる存在なのです。概念的には分かりますが、これを行動のレベルで落として考えていくという状況で非常に根気が必要です。この部分だけ、ホログラフィートークでやったほうが速いのではとも思います。
認知行動療法の一種なので、意識するという点から考えていきます。しかし、意識できないものを意識することは非常に大変な作業です。EMDR、ホログラフィートークなどは、そのように意識しなくても、体の感覚など曖昧なものから、意識できていないものを掘り起こすことができます。
認知処理療法
認知行動療法の治療の中で、持続エクスポージャーに追いつくほどのエビデンスを持っているのが認知処理療法です。
認知処理療法のよい点は、筆記でできるという点です。そのため、自分で少しづつ進めることができます。また、持続エクスポージャーよりも重症なトラウマであっても、続けられるように思います。
難点は、身体的なものに対して、持続エクスポージャーよりも更に重点が置かれていない点です。良くも悪くも、「認知」に焦点を当てているような印象があります。
認知行動療法
持続エクスポージャー療法や認知処理療法のようなマニュアルにのっとった方法でなくても、通常の認知行動療法でトラウマを治療することもあります。その方法としては持続エクスポージャー療法や認知処理療法に準ずるやり方になります。ただ、この方法でも良くなります。
ボディ・コネクト・セラピー
藤本先生がやっている臨床上の工夫をまとめて作った方法です。タッピングとブレイン・スポッティングを混ぜたような方法です。
この治療法の良いところは、非常に治療スピードがマイルドな所です。重症なトラウマの場合は、自分の身体感覚を観察させるだけで恐怖感に圧倒される場合がありますが、タッピングをしながら治療を行うので、その恐怖感は分散されます。
この治療法の難点は、思考などの気持ちに重点があるようなトラウマは苦手という所です。ただ、「人生が短く感じる」「人は皆敵のような感じ」などの身体感覚からくる考えの問題に関しては非常に強力です。
STAIR/NST
この治療法は、Marylene Cloitre先生によって複雑性PTSDに対する治療法として作られています。認知行動療法の一種です。Cloitre先生は、幼少期の虐待と境界性パーソナリティ障害などの疫学をしっかりと研究している方です。そのため、複雑性PTSDの感情調整困難に対して非常に優れた洞察があります。
私はあまり知らないのですが、STAIRの部分は、弁証法的行動療法から流用されたものが中心です。感情に名前をつけるという点が非常によいように思います。マインドフルネスは、必要なスキルではありますが、あまりに漠然としており、このSTAIRの部分の方がわかりやすいと思います。
ブレインスポッティング
この治療法は、David Grand先生によってEMDRの変法という形で作られました。EMDRよりも負荷が少ないという治療法ではありますが、もともとのEMDRが様々な応用をしているために、ことさら新しい治療技法という形にみえないということもあります。また、トラウマの治療には棒を眺め続けるという身体的な治療を行うのですが、その前段階としてカウンセリング(トークセラピー)をするという非常に不思議な一面もあります。
ソマティック・エクスペリエンス
Peter E Lavine先生が独自に開発した治療法で動物などの行動観察からヒントを得て作られています。トラウマは体からという着想を元に始めており、RCTは非常に少ないものの、当事者の間ではかなり人気な治療法ではあります。
よい点は、主訴というものが必要ないという点です。複雑なトラウマになるほど、何が困っているのかどうしたいのかどうなりたいのかが見えてこないために、この点は非常に良いところだと思います。
また、自分が緊張していたことに気づいたという感想が多く聞かれている通り、自分の身体感覚に対する気づきや緊張を抑えるという点が非常に特色ではあります。
難点は、治療技法の習得に非常に時間がかかるために治療者が非常に限られるということでしょう。3年かかります。
マインドフルネス
マインドフルネスは、非常に基本的な技法であり、どこかの段階で習得しておくと良い技法です。
良い点は、自分の気づきを増やしていきます。トラウマがあると自分自身を理解していく内省が難しくなってきます。そのため、マインドフルネスのような方法を身に着けていたほうが、自分を知るためにも良いでしょう。また、人に対して怒りっぽくなってしまうなど、そういう場合にマインドフルネスの技術を習得していれば止めてくれるでしょう。
難点は、トラウマが重度であると身体感覚の観察が怖くてマインドフルネスが怖くなるか、「なにもない」と振り切れてしまうかのどちらかになるという点です。ある程度、トラウマの治療が進まないとボディスキャンなどの身体を観察する方法は使えません。
USPT(潜在意識下人格統合)
もともとは、解離性同一症をEMDRで治療している際に考えついた工夫からできた治療法です。
よい点は、解離性同一症などの自分の中に様々な人格ないし、人格様の状態がある場合に使えるという点です。
難点は、かく人格が持つトラウマを解消せずに使うと、人格を統合しても再分離してしまうという点と、USPTにはトラウマを治療する技法が含まれていないという点です。