なぜPTSDが治らないのか?

PTSD トラウマ
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トラウマ・PTSDは、実はある程度、自然寛解していくものだということが分かっています。

これは、災害や犯罪被害に会う方が、直後には急性のトラウマ反応を起こすにもかかわらず、その後の経過にともなってトラウマ・PTSDの症状を満たさなくなるという復数の研究結果から分かっています。

では、なぜPTSDが治らないかと言うと、PTSDが回復することを阻害する要因が幾つかあるからです。

 

フラッシュバックを起こしそうな状況の回避

例えば、交通事故後にPTSDを発症した方は、交通事故の現場にいくことや、車にのることを避けてしまいます。

犯罪被害にあわれた方は、被害にあった場所にいくことをためらったり、エレベーターなどの密室をさけるようになります。

もしくは、話の中で、トラウマに関連する話題が出ることを避けようとします。

このように、フラッシュバックが起こりそうな場面、トラウマに関係しそうな状況をさける行動の習慣がPTSDによる恐怖を持続させてしまいます。

PE療法では、この部分に生活内暴露という形で働きかけを行います。

 

トラウマ記憶の中に埋め込まれた、「考え」が引っかかっている

生活の中で避けていることがなくなっても、トラウマ記憶が思い出されるたびに苦しさが出てくることはよくあります。

トラウマ・PTSDで悩んでいる人の多くは、このような症状で苦しんでいます。

この引っかかっている考えには幾つか種類があります。

 

・罪悪感・自責感

例えば、「あの日、交通事故に会ったのは、自分が車に乗ったからだ」「あの日、声をかけられたときに、ついていかなければ、こんな犯罪に会うことはなかった。なんで、ついていってしまったのか…」「犯罪者からナイフを突きつけられた時に、もっと自分が上手く対応できていれば、○○さんは助かったのに…」「お父さんにお母さんが殴られているのを止められなかったのは、自分が止めなかったからだ」「私が妻として不甲斐ないから、DVをうけたのだ」などです。

これらは、いずれもトラウマの体験が起こった責任は自分にあるという考えに繋がっていきます。そして、このような考えは、フラッシュバックのたびに襲ってきます。

 

・対処できない

例えば、「また、誰かと結婚すれば、DVを受けてしまうだろう」「今、お父さんがお母さんを殴っている様子を目撃しても、私にはなにもできない」「私は、犯罪者にあっても、何も対応することができない」などです。

これらは、トラウマ体験がもう一度起こった時に、今でも対処できないという感覚に繋がっていきます。そうなると、「自分は無力だ」「自分は何もできない」という感覚が出てくるのです。

仮に、自然災害などのように、もう一度、経験する可能性はとても低いようなトラウマでさえ、「自分は何もできない」という感覚に陥ります。

 

・人は信用出来ない・信じられない

例えば、「誰も自分のことを大切にしてくれない」「みんなは、自分のことを守ってくれない」「誰も自分のことを助けてくれない」などです。

現在は、周囲の人が温かく接してくれるにもかかわらず、このような感覚に陥ります。そのため、周囲は、「考えが歪んでいる」と評価しがちな傾向にあります。しかし、本人からしてみれば、「頭では分かっている。でも、信じられる感覚が出てこない」という感覚になるのです。

 

・汚れてしまった

これは、セクハラや性被害をうけた場合によく出てくる考えです。「もう、私は汚れてしまったから、幸せにはなれない」「幸せになる資格はない」などが出てきます。

 

以上のような感覚は、トラウマ・PTSDの症状の一部になります。そのため、周囲からそんなことはないと説得をされても、このような感覚はなかなか変わりません。そのため、いつまでたっても、トラウマ記憶を思い出すと辛いのです。なぜなら、このような考えがフラッシュバックと共に出てきて苦しいからです。

また、このような考えが強く残っているとトラウマが終わった経験として位置づかないのです。そのため、トラウマ・PTSDがよくなっていかないのです。フラッシュバックを何度繰り返しても、慣れないのはこのためです。この考えの引っ掛かりがある限りは、何度フラッシュバックを繰り返しても、フラッシュバックに慣れることはありません。

そのため、専門的な治療(PE療法、EMDR)が必要になります。PE療法、EMDRではこのような、トラウマ記憶に埋もれた、悲観的な考えに焦点をあてて治療を行っていきます。この悲観的な考えが崩れ去っていくと、トラウマは過去のものになり、「今」に侵入してくることはなくなります。

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