EMDRと、その作用原理とは? どんな人に効くのか?

EMDR
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EMDRとは、PTSDに対する治療法です。

現在、PTSDに対する確立されたエビデンスがあるものは、PE療法(持続エキスポージャー療法)とEMDRです。

EMDRは、認知行動療法と同じく、標準的なプロトコルが決まっています。その大まかな流れは、

第1段階:生育歴・病歴聴取と治療計画の設定
第2段階:準備
第3段階:評価
第4段階:脱感作
第5段階:植え付け
第6段階:ボディスキャン
第7段階:終了
第8段階:再評価

になります。恐らく、有名なのは、第4段階の脱感作です。
この段階では、患者にトラウマ記憶を想起してもらい、トラウマ記憶を処理していきます。
処理とは、正常な記憶と結びつけ、記憶の正常化をすることをいいます。
古典的には、患者の目の前で治療者が指を左右に動かします。
その指を患者が目でおいます。
様々な研究から、現在は左右交互刺激(両側性刺激)ならば、どんな刺激でもいいことが分かっています。

この両側性刺激が、なぜ効果を持つのかは、まだ分かっていません。
認知行動療法は、実は動物モデルができていますが、EMDRは動物モデルがありません。
動物モデルとは、動物を患者と同じ状態にして、その動物に対して行動療法を行うものです。
行動療法は、古典的には動物実験が盛んな治療法です。

昔は、REM睡眠と関係があるのではないか?と言われていました。
REM睡眠と関連があるならば、目ではない刺激で効果があることの説明ができませんね。
ちょっと苦しいような気もします。

日本EMDR学会の市井先生は経験的に、両側性刺激は脳の記憶連想システムを活性化させるとおっしゃっています。
確かに、両側性刺激を行うと、何らかの連想が容易に起こります。
多くの方で、脱感作中に、様々な感情や記憶が思い出されます。
ただし、EMDRは思い出すことを目的にしているわけではありません。
記憶が繋がっていく現象の結果、思い出すのです。
EMDRの目的は、記憶を繋げることです。
記憶を繋げることで処理が起こると考えられています。

このEMDRですが、その不思議な作用機序のため、色々な使い方があります。

例えば、幼少期にトラウマを追ってしまい現在、うつ病として加療されている方がいるとします。
一番多いのは、DVへの暴露、児童虐待です。
これらはPTSDになり得ますが、PTSDにならないこともあります。
つまり、症状がPTSDの診断基準を満たすほど大きくない場合です。
こういう方の場合、大人になるまである程度、普通に過ごされます。

しかし、仕事などを始めて、何らかの要因になりうつ病を発症されると、
この過去のトラウマが非常に悪影響をもたらします。

こういう方には、標準的な認知療法は向きません。
私の所にくる方で、このような病歴を持ち、認知療法が上手くいった方はいないです。
多くの方は、『頭では分かるけれど、納得出来ない』という感覚を持っておられます。

認知療法では、スキーマまで対象にしますが、概念的な方法では上手くいかないような気もします。
スキーマ療法なら上手くいきそうな気もします。
また、マインドフルネスは、全く上手くいかないとこもない印象を受けますが、重症になると上手くいきません。
それは、過去のトラウマに圧倒されてしまい、今を感じられないからです。

こういう方にはEMDRが非常に効果をあげます。

また、近年、複雑性悲嘆と呼ばれるうつ病のサブタイプが注目を浴びています。
複雑性悲嘆とは、自分のとても大切にされている方が、亡くなった後にうつ病になられる場合です。
複雑性悲嘆も認知療法ではあまりうまく行かないような気がします。
複雑性悲嘆に対する認知行動療法では、エキスポージャーを中心にします。どちらかというとPTSDの治療に近いです。
このタイプの方にもEMDRは非常に効果をあげます。

最近は、PTSDの臨床では、認知行動療法とEMDRをどう使い分けるかという議論が起こり始めています。トラウマの治療法は無数にあるので、どのような方にどのような方法が有効なのか…今後の動向が楽しみです。

参考:EMDRと、その作用原理とは? どんな人に効くのか?

 

 

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