強迫性障害の治療において、強迫観念だけを我慢するという方法は、まず上手くいかないと思われます。まれに、強迫観念を我慢するだけで、改善される方がいるようですが、私が実際に治療に携わっている方は、上手くいっていないようです。
なぜなら、我慢するというのは、曝露反応妨害法(暴露儀式妨害)のうちの、反応妨害しか行っていないからです。曝露反応妨害法というのは、やはり暴露という手続きが必要なのだと思います。
最も最悪なパターンは、強迫観念を我慢するだけ我慢して、最終的に強迫行為をしてしまうパターンです。これは、強迫行為をしたい衝動を溜めて溜めて放出してしまうので、強迫観念と強迫行為の結びつきを強めてしまう恐れがあります。
そのため、強迫観念に負けそうだなと思ったら、その日に限ってはさっさと負けて強迫行為をしてしまったほうがよいとも思っています。強迫性障害の治療を3-4年単位で見てみると、寛解したと思っても症状がぶり返す時が必ずあります。その時に覚えておくと良いかもしれませんね。ただし、次の日はしっかりと曝露反応妨害法をしましょう。
さて、このように曝露反応妨害法をやっても、強迫観念が消えない場合があります。その場合、一番最初に考えるべきことは、「刺激の強度が足りない」ということです。刺激の強度が低ければ、経験的には「慣れ(専門的には馴化といいます)」のスピードが落ちます。特に、中程度以下の刺激になると、「慣れきる」という状態が起きない場合があります。
これは、恐らく強迫性障害の情動が不安ではなく「嫌悪」の場合があることも一つの理由だと思います。一般に、「不安」を訴える強迫性障害の方のほうが、曝露反応妨害法の反応は良いです。逆に、嫌な感じなどの「嫌悪」を訴える場合は、曝露反応妨害法の反応は悪くなります。そのため、嫌悪の場合はマインドフルネス等のスキルを追加で練習したほうがよいと考えています。
しかし、マインドフルネスの方法の他にも「時間遅延法」と呼ばれる方法があります。
これは、「考える時間を遅らせる」という方法です。
例えば、「鍵を締めたかな?」という考えが頭から離れない場合、実際に鍵が締まってなかったとしてどうでしょう? 10分、30分、1時間で状況が何か変わるでしょうか? 何も変わりませんね。
時間遅延法では、まず30分、考えることを先延ばしするように指導します。
そして、30分後に、もう一度、「鍵を締めたのか?」と考えるのです。
この方法の一つのポイントは、考えを抑制しないことです。よく、「考えないようにすればいい」と言われるかもしれませんが、人間の思考は抑制しようとすればするほど、抑制できないことに気がつくはずです。
つまり、「考えないようにする」というのは人間の脳の機能上、無理なのです。そのため、考える時間を伸ばします。
この方法がむく例を考えてみましょう。
例えば、会社で書類をつくり、その書類の金銭的な金額が間違っているかどうかを確認したいという衝動に駆られたとします。
しかし、会社が夜中に稼働していなければ、確認は明日の朝でも良いですよね。いますぐ確認する必要はないのです。
これは、「将来の不安」等のうつ病や全般性不安の症状に対しても用いられます。
「試験に受かっただろうか?」「復職に関しての産業医の判定はどうなんだろうか?」 …と「もし、◯◯だったら…」と考えてしまいます。
しかしこれらも、ことが起る前に考えても仕方がないことですね。このような場合は、結果が分かるまで心配を先延ばしするようにします。
この方法は、このように「今考えても・心配してもしかたがないこと」を先延ばしにしていく方法です。