暴露反応妨害法を超えて:制止学習による暴露

強迫症(強迫性障害)
Pocket

制止学習による暴露については、Jonathan S. Abramowitz先生というアメリカの臨床心理士が提案している新しい暴露の方法になります。彼は、強迫症の専門的な研究をしています。これは、Michelle Craske先生という暴露療法を最適化する研究に基いた方法になります。この制止学習による暴露を強迫症にも使えるのではないかとAbramowitz先生は考えています。

 

暴露反応妨害法の問題点

暴露反応妨害法の問題点は、治療脱落率の高さ、暴露反応妨害法を行っても改善しない例があるという問題がありました。研究上でも、治療脱落が多いので、実際の場面では暴露に踏み込めない場合も多いのです。暴露に踏み込む勇気が持てないということはよくお聞きします。

 

暴露は「馴れる」ではなく、「安心」を学ぶことだった

暴露反応妨害法は、馴化という不安に長時間されされると馴れていく「馴化」というメカニズムが想定されていました。例えば、『机に触ると汚い』という例を考えてみましょう。これは、「それまでは汚いと思っていなかった机」が「汚い」と結びついてしまっている状態と言えます。そして、机に触れることで、「机」と「汚い」の結びつきが壊れていくと考えられていました。これが、馴化という考え方です。

しかし、馴化では説明できない現象が幾つかありました。その一つは、数日立つと、馴れたはずのことが、元に戻ってしまうのです。「机」と「汚い」の結びつきが壊れてしまったのであれば、それがもとに戻るのは変だという疑問がありました。

 

制止学習では、この問題を解決するために、学習は常に上書きされるという立場を取ります。『机=汚い』という第一のルールを学んでいる状態に対して、『机=汚くない』という新しいルールを上書きしていることが暴露ではないかと考えるのです。そして、この新しいルールが古いルールを「制止」していると考えるのです。

この仮説に基づき、暴露の効果を最大限にしていくための研究があります。次からは、制止学習による暴露で言われているコツをまとめます。

 

予測を裏切る

暴露というのは、『机=汚くない』という新しいルールを学ぶことでした。この新しいルールを効率よく学ぶには、「暴露をした結果どうなるかという予測を裏切る」ということが大事になります。

例えば、「机に手を触れると感染するだろう」「駅のホームに立つと人を突き飛ばす」これらの予測が外れるように暴露を計画するのです。言い換えれば、自分が起こるだろうと思っている心配が起きないことを学ぶことが暴露であると言えます。

その為の予測をたてます。

・ネガティブな予測が何であるか? 例) 「机に触ると感染する」

・どれくらいの確率で起こるか? 例) 「80%」

・どれくらい嫌な感情が生じるか? 例)「嫌悪感が 70%」

・どれくらい強迫行為を我慢できるか? 例)「10分」

そして、実際に暴露をしてみて、自分の想像があたっていたかどうかを確認するのです。

 

SUDは使わない

昔の教科書には暴露反応妨害法の前と後のSUDの変化がのっていました。しかし、制止学習による暴露では、暴露を馴化ではなく、新しいルールの学習として考えるのでSUDの評価はしません。

 

短時間でもOK

暴露反応妨害法は、30分以上かけて行うことが多かったのですが、予測と結果のずれを実験によって確かめるので、5分程度でも大丈夫です。

 

予想と結果を突き合わせる

これが、制止学習による暴露の最大の目的になります。この予想と結果を突き合わせていく過程が暴露の目的になります。

 

確認行為はしてもいい?

そもそも、暴露をするときに強迫行為をしてはいけない理由は、『暴露をしても大丈夫であったのは、強迫行為をしたから』と学んでしまうからです。例えば、『汚いものを触った…でも、後で手を洗ったから、感染が防げた』『鍵を確認せずに家を出た。でも、家の前で危険人物がいないかを確認したから、泥棒に入られなかった』などです。

もし、何らかの形で予測を裏切られるのであれば、強迫行為をしてもいいことになります。例えば、「鍵を確認せずに家をでると100%の確率で泥棒に入られる」と頑なに信じているのであれば、外出した後に沢山確認してみることになります。

 

リスク0で暴露をする

暴露をしたくない理由の一つは、「予測が当たると何らかの被害がでるから」ですね。制止学習による暴露では、被害が出ない状態でも、予測を裏切りさえすれば暴露になります。

例えば、『水道がとまっているかどうか気になって確認してしまう』という例では、蛇口を締めて確認をせずに部屋を出てから戻ってきて、沢山確認してもらいます。そうすると、『水道が止まらずに、水道代がかさんでしまう』という被害は防げますね。この暴露を何度も行うことで、「確認をしないと、水道の蛇口は開いているだろう」という予測を壊していきます。

「床を触って手を洗わないと、感染する」と思う例では、家族に床に触ってもらい、手を洗わずに生活してもらったりします。その結果、家族が感染するかどうかを観察することも暴露になります。

 

この他にも制止学習の研究から分かってきた、暴露の効果を最大にするコツは幾つかあります。また、色々と紹介できればと思います。

Pocket

タイトルとURLをコピーしました