巷には、「褒めて伸ばす」という方法論が沢山ありふれています。しかし、具体的な場面で、どのような対応をすればいいのかと常々悩んでいらっしゃると思います。今回は、少し違った角度から、考えていきたいと思います。基本的に子どもについての相談が多いので、子どもと表記していますが、パートナー(夫・妻)と読み替えて頂いてかまいません。
過干渉だけど不干渉な対応を心がける
親・家族が、先回りをして、「○○した方がいいよ」「○○しなさい」「こういうときは、☓☓をして…」などのようにアドバイスや介入をしてしまっている場合があります。本人からは、「うちの親は過干渉だから、黙っといて欲しい、話しかけないで欲しい」と言われてしまいます。そうすると、だんだんと親も、「本人がやる気になるまで待つしかない」と考え始め、子どもが言ったとおりに、関わらないようになっていきます。そうしているうちに、「子どもが、やる気が起きないから、変わらないのだ」という気持ちが強くなってしまうものです。
確かに、「黙っといて欲しい」「ほっといて欲しい」というのは、子どもからすれば、素直な気持ちです。しかし、子どもと関わらないのに、子どもの行動を変える関わりはできません。
まずは、子どもがとった行動の背景にはどんな気持ちがあるのかを考えていくことが大切です。例えば、「おれが、確認しているときは部屋に入ってくんな」と言われた時、子どもはどんなことを考えて、そのセリフを言ったのかを考えていくのです。『音がうるさいと、確認に集中できない』かもしれませんし、『途中で話しかけられると、どこまで確認したのか分からない』かもしれません。ここが把握できていないと、「どんな関わりをしても、『ウザい』と思われるのだ」という結論に至ってしまいます。
最もよい関わり方は、関わる回数を増やすことです。一方で、指示やアドバイスなどは全くしないでいいというくらいに減らしていきます。
子どもの増やしたい発言(行動)と減らしたい発言(行動)をしっかりと定義する
家族対応を考える上では、まずはここをしっかりとふまえる必要があります。例えば、「ふーん、認知行動療法ってこんなことをするのか」「認知行動療法なんかやりたくないなぁ」「今のままでもいいよ」「どうせ、自分は治らないし」「まあ、話し聞くだけならきいてもいいよ、どうせ意味ないと思うけど」「今のままだと、嫌だ…」「こんな生活、もうしたくない…」 などの発言が出てきた時、どの台詞はもっと増やしていくと良いでしょうか?
「ふーん、認知行動療法ってこんなことをするのか」:この発言は、認知行動療法に興味を持っているので増やしたい発言ですね。
「認知行動療法なんかやりたくないなぁ」「今のままでもいいよ」「どうせ、自分は治らないし」:これは、「やりたくない」と言っているので、減らしたい発言です。
「まあ、話し聞くだけならきいてもいいよ、どうせ意味ないと思うけど」:これは、前半の「話を聞くだけなら…」という部分は増やしたい発言ですね。このように増やしたい発言が含まれている場合もあります。
「今のままだと、嫌だ…」「こんな生活、もうしたくない…」 :これは、今が嫌だというネガティブですが、変化へと繋がる発言なので、増やしたい発言です。
コミュニケーションの中で、増やしたい発言が出ると、大きく共感していきます。もしくは、偉い・凄いと褒めます。日本人は、「偉い」「凄い」と気色悪く受け取ってしまう方もいます。そういう場合は、相手が『どうせ、本音じゃないだろう』という気持ちになっていることがほとんどです。こっちが、本気で「偉い」「凄い」と思って、このセリフを何度もいえば、段々とその気持は伝わっていくので、「偉いね」「凄いね」というセリフは使っていくとよいと思っています。
一方で、減らしたい発言には、取り合わずにスルーしていきます。流していくのです。共感もしません。共感すると、その発言は増えます。
子どもから増やしたい発言がでない場合は、『でるまで待つ』
この場合は、自分が相手の話を聞く前に何らかのアドバイスや指示を出している場合がほとんどです。よくよく話を聞いていれば、部分的にでも必ず増やしたい発言が含まれています。その発言が出てくるまで、最小限のうなずきで、否定も肯定もせずに話をきいていきます。
声かけのタイミングにも注意する
強迫性障害は、手洗いや確認行為などに時間がかかる病気です。しかし、よくよく観察すると、そこには一定のパターンが復数に組み合わさっていることが分かります。最もわかりやすいのは、手洗いです。
例えば、
①右手、左手と順番に手を水で濡らす
②右手に石鹸をつける、左手に石鹸をつける
③右手のあわを落とす、左手のあわを落とす
④あわを落とし終わった後に、「もしかして、水が跳ね返って手が汚れたかも…」と思い、②に戻る…
のようにサイクルがあるのです。この時、②の最中に「いい加減、手洗いは止めなさい」と声をかけるとどうでしょうか?本人からしてみれば、「今、声をかけられると、どこまで洗ったか分からなくなるじゃないか!」という気持ちになるはずです。そうすると、イライラしてきます。
つまり、このタイミングは声をかけるポイントではないのですね。たとえ、非常に長い強迫行為でも、幾つかのパターンから成り立っていることが多いのです。なぜなら、パターン化することで、強迫行為をする回数を減らそうとしているからです。例えば、外出時の鍵のチェックの順番を決めていると、途中でどこまで確認したかわからなくなっても、「いま、トイレを確認しているから、部屋は既に確認しているはず…」のように、確認しなくて良いからです。
この声をかけるタイミングは、強迫行為の流れを見ていると分かります。この一連の流れが終わった時に声をかけるのがベストのポイントです。時に、「いつもは3回、手洗いしていたが、今日は2回で終われたねと声をかけることもできます。」
ほめるときは、心からほめる
ついつい出てしまう気持ちに『なんで、これくらいの簡単なことができないのか』『本人の努力が足らないのではないか?』『もっと、一生懸命にならないと、改善できないでしょう』という気持ちが出てきます。
そうなると、「はぁ、やっとできたの? 次は、もう少し早めに止めれるようにね」「今回は、いいけど、次は○○できるようにした方がいいと思うよ」「これくらいは、できてもねぇ…社会ではいきていけないよ」「もう少し、やる気が出てくるといいんだけど…」などのようなセリフを言ってしまいがちになります。
しかし、これらのセリフが入ると、その後にどんなに褒めても、その言葉は、子どもには届かないのです。『子どもは、常に自分の症状・病気と向き合っていて、なんとかしようとしている』そのような気持ちの前提が必要です。例え、引きこもりで仕事をしておらずに、何年も引きこもっている強迫性障害の方でも、日々自分の症状と向き合って苦しんでいます。この方法なら、強迫観念を消せるのではないか? 別の方法はないのか?と様々な情報を仕入れようとしています。 『子どもの頑張りは、大した結果を出していない』ということを前提とした声かけは、これらの折角のがんばりの芽を詰んでしまうことになります。
「は」と「も」の違いにも注意する
これは、更に細かい言い回しなのですが、「○○はできるんだね」「○○はできたね」という言い方は、子どもの可能性を狭める言い方なのです。むしろこれは、『○○はできるが、☓☓はできない』という前提を含んでいるメッセージを与えてしまうのです。これは、「○○もできるんだね」「○○もできたね」という言葉に置き換えていく必要があります。
増やしたい発言(行動)を増やすことで、減らしたい発言(行動)を減らす
「子どもの行動を注意しなくていいのか? / しからなくていいのか?」という疑問もあるかもしれません。この疑問の背景には、「注意をしなければ、人の行動は変わらない」という信念があると考えられます。しかし、注意をしなくても、自分が変える必要があると認識し、変われる自信がある、変わる方法を知っている等の条件がそろえば、行動は変わっていきます。つまり、注意をしなくても良いのです。逆に注意をすることのデメリットは、子どものやる気をそいでしまうことです。
子どもの向かっていく行動の舵取りは、「増やしたい発言、減らしたい発言」でやっていきます。簡単に言えば、増やしたい行動で、減らしたい行動を置き換えていくという発想をとります。
具体的な例を考えてみましょう。ある子どもが、いつも「どうせ、汚いものに触っても治らないって、あんなのやる気もしないし、やっても全然、良くならなかったらどうするの? 余計に症状が悪くなるだけじゃないか… 色々と本を読んでみたけど、役にたたないと思う!」と言ったとしましょう。「いやいや、認知行動療法はちゃんとした方法で…」と言いたくなってしまいます。まさに、減らしたい発言(行動)の嵐です。しかし、「本は色々と読んだ」という発言がありますね。そこで、「へー本読んで、勉強して偉いね」と返すのです。それ以外のセリフは必要ありません。むしろ、あった方が、メッセージとしては伝わりにくいものになります。
このような対応をすれば、認知行動療法の本を読んだりしていきます。こうして増やしたい発言のみに取り合って行くことで、他の「役に立たない」「余計に悪くなるんじゃないか」という発言が相対的に減ってきます。
家族対応は、非常に難しい問題です。ここに上げている方法を全部駆使しても、簡単に本人が認知行動療法をしてくれるとは限りません。しかし、家族の対応が変わってくると、本人にも必ずよい影響が出てきます。