嘔吐恐怖症を治療する

恐怖症・嘔吐恐怖症
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嘔吐恐怖症とは?

嘔吐恐怖症は、「自分が吐くのではないか?」「吐くのが怖い」「嘔吐に関連するものをみると、嘔吐するかもしれないので怖い」といった症状が中心の恐怖症です。どちらかと言えば、自分が吐くことを恐れます。

嘔吐恐怖症は、「嘔吐するんじゃないか?」と不安になる予期不安、体のちょっとした感覚に敏感になる身体感覚過敏症、特定の場所にいけない広場恐怖の3つに症状を分けると整理しやすいです。

「お腹いっぱいに食べられない」「胃腸の調子が悪くなると不安になる」「体調が悪いのが怖い」「電車などの終電で酔っぱらいにあうのが怖い」「飲み屋などの嘔吐しそうな人がいる場所が怖い」「嘔吐するときに助けが呼べない場所に行くのが不安」などの症状の背景には、これらの3つの要素が関係しています。

これらの中心には吐き気の感覚をいまにも嘔吐しそうな感覚であると解釈していることが中心にあります。

嘔吐恐怖症の症候学

Lipsitz et al(2001)によると、嘔吐恐怖症平均発症年齢は9.2歳であり、89%が女性でした。 Veale and Lambrou(2006)でも、ほぼ女性が多く、平均25年も嘔吐恐怖症に悩んでいるとのことでした。

推奨される治療

嘔吐恐怖症に推奨される確立された治療というのは、現在ではよくわからないというのが結論です。Sysematic reviewも少なくAlexandra Keyesa, A. et al(2018)くらいしかありません。

Veale and Lambrou(2006)のインターネット調査では、嘔吐恐怖症患者の20.3%が行動療法を受けたが 改善はなかった。17/9%の患者が認知行動療法を行ない、中程度の改善をした。抗うつ剤や吐き気止めは、軽度の有効性であた。催眠療法は、軽度の有効性だったと言われています。この行動療法と認知行動療法の差は極めて重要です。Vealeはこの後の論文で行動療法的な視点ではなく認知行動療法としての治療へ転換しています。認知行動療法では何が違うかという点ですが、暴露においても認知の変容に焦点を当てている点が最も違うのです。

嘔吐恐怖症を暴露で治療できるのか?

嘔吐恐怖症は、現在のところ認知行動療法による暴露が効果があるのではないかといわれています。実際、暴露をすることで克服できることもあります。

嘔吐恐怖症の人の多くは実際には嘔吐しない状況を恐れています。暴露をとおして、お腹がいっぱいになっても嘔吐があまり起きないこと、嘔吐をしてもそこまで大変なことが起きないこと、終電に乗っても嘔吐することはほとんどないことを体験していくことで恐怖部分が克服できることがあります。

私も最初は暴露を中心とした治療をしていました。嘔吐している人がいる動画を一緒に見たり、行けない場所に一緒にいったりしていました。

しかし、暴露はなかなかうまくいかないことも多かったのです。その理由は、嘔吐に関連する刺激に触れるとパニック状態になることもあり、暴露が継続できなくなるのです。

そこで、暴露の刺激を弱くして少しづつ暴露をするように工夫をしたりしていました。しかし、それでも調子を悪くしたり、突発的な体調不良でうまくいかない場合も多かったのです。

嘔吐恐怖症のトラウマに注目

嘔吐恐怖症の治療法としてもう一つ注目されている方法としてEMDR というものがあります。EMDR とは、もともとPTSDの治療だったものです。暴露でうまくいかないのであればEMDRでは治療できないのだろうかと試してみたのです。

嘔吐恐怖症は、他の恐怖症と違い、発症のきっかけになっているトラウマが報告されることがとても多いのです。例えば、恐怖症、社交不安症、強迫症等は発症のきっかけが明確に分からないことも多いのです。しかし、嘔吐恐怖症の場合は、わりと幼稚園・保育園で他の園児が嘔吐したことが発症に先行していることが多いのです。

さて、「トラウマ」とは、なにかということを少し説明すると、「トラウマ」とは、記憶の整理がしっかりとできていない状態なのです。記憶の整理ができていないと、過去の体験が今の状況に影響をします。

犯罪の被害にあったとき、その記憶の前後関係や、その時に感じた感情がごちゃごちゃになりうまく話せない状態になります。そうなると、似たような状況に反応してしまいます。例えば、犯人が着ていた服に似たような服を着ている人にあうととても怖くなったりします。冷静に考えると怖がる必要のない人なのに、このような反応が起きます。

このような症状にEMDR をすると、当時の苦しかった記憶の前後が次々に出てきて、自分の何が苦しかったのかがしっかりと分かってきます。その結果、目の前にいる人と、自分に危害を加えた人は違う人なのだ。だから、目の前の人は怖くないと考えの変化が起きます。

嘔吐恐怖症のきっかけになった体験にも実は同じことが言えます。嘔吐というのは、小さい子どもにとってかなりの強烈な体験です。嘔吐というのは、死にはしないけれど、とても苦しい体験なのです。また、人間にはミラーニューロンがあり、苦しんでいる人の顔をみると、その人の感情を強制的に汲み取ってしまうという傾向もあります。

そのため、小さい頃に、嘔吐によって苦しんでいる人を見たり、その対応であたふたしている大人の姿をみてかなり怖くなってしまうのだと思われます。

嘔吐恐怖症の人に過去の嘔吐に関するトラウマ体験をすると非常になまなましく苦しい経験だったと教えてくれます。

また、嘔吐場面がトラウマになる理由として、嘔吐恐怖症のきっかけになるトラウマがかなり幼い時期に起こっていることもあると思います。小さいときに経験したトラウマは、まだ言語が未発達な状態であるため、自分の感情が実はつかみにくいのではないでしょうか。

自分の感情が掴みにくいほど、トラウマ化しやすくなります。

しかし、EMDRだけではなかなか恐怖感を克服できない感覚は続きました。EMDRですら、圧倒的な恐怖を収めることは難しく、またEMDRでは過去のことは整理できても現在の恐怖に対してはあまり有効ではないのでした。

再び認知行動療法へ

現在は色々なことを統合して認知行動療法+催眠療法が最も有力かと考えています。

催眠は、一見すると非科学的な方法のように思えますが、非常に科学的な方法です。催眠の最も得意とする方法は、刺激に対する感情を変えることです。例えば、テレビの催眠術では、わさびを辛いと思わせないようにしたり、人を好きにさせるという催眠もあります。

催眠の欠点は、効果が永続的ではないという点です。催眠がかかった状態でセッションを終えても、しばらくすると効果がなくなってしまうことがあります。そのため、ある程度、反復する必要があります。

一方、認知行動療法の曝露に関する研究が進み。曝露の効果を高める方法の一つに刺激に対する嫌悪感を減らすという方法が知られるようになりました( Craske, 2015 )。催眠療法においては、この嫌悪感を減らすという方法が非常に得意なのです。

つまり、催眠を行い、嘔吐に対するネガティブで恐ろしいというイメージを修正しながら、曝露を少しづつ行うことで、嘔吐恐怖症を治療しようとする試みです。

参考文献

  • David Veale and Christina Lambrou 2006 The Psychopathology of Vomit Phobia Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 34, 139–150
  • Lipsitz, J. D., Fyer, A. J., Paterniti, A. and Klein, D. F. (2001). Emetophobia: preliminary results of an internet survey. Depression and Anxiety, 14, 149–152.
  • Keyes A, Gilpin HR, Veale D. (2018) Phenomenology, epidemiology, co-morbidity and treatment of a specific phobia of vomiting: A systematic review of an understudied disorder. Clin Psychol Rev. Mar;60:15-31
  • Craske M.G. 2015 Optimizing Exposure Therapy for Anxiety Disorders: An Inhibitory Learning and Inhibitory Regulation Approach. Verhaltenstherapie 25:134-143

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