自閉スペクトラム症には、症状の一つに「こだわり」があります。
DSM-5から該当箇所を抜粋すると…
行動、興味、および活動の限局された反復的な様式で、以下の少なくとも2つによって示される:
1.常同的あるいは反復的な言語、運動、あるいは物の使用; (たとえば単純な常同運動、エコラリア、物の反復的な使用、あるいはその人独自の言いまわし)
2.習慣や言語あるいは非言語的行動の儀式的パターンへの過度のこだわり、あるいは変化に対する過度の抵抗; (たとえば儀式的動作、同じ道順や食べ物への要
求, 反復的な質問、あるいは些細な変化に対する極度の苦痛)
3.強度あるいは対象において異常なほどの限局的で固着した興味; (たとえば、普通ではない物への強い執着や没頭、極めて限局的あるいは固執的な興味)
4.感覚情報に対する反応性亢進あるいは反応性低下、あるいは環境の感覚的側面に対する異常なほどの興味; (たとえば痛み/熱さ/冷たさに対する明らかな無反
応、特定の音や感触に対する拒絶反応、過度に物の匂いを嗅いだり、触ったりすること、光や回転する物体に対する没我的興味)
となります。
1.2はかつて自閉症と呼ばれるような知的障害を持った自閉スペクトラム症の方たちに多く、
3は、かつてアスペルガー障害と呼ばれるような知的障害を伴わない自閉スペクトラム症の人たちに多い症状です。
自閉スペクトラム症における、こだわりの強さは知的障害を伴うかどうかで、その様相は大分違い、
知的障害を伴わない自閉スペクトラム症の人の中には、スケジュールの変更等も大丈夫であったり、
急な変化に柔軟に対応できる方もおられます。
一見すると、その方たちは「こだわり」という症状がないかのように見えます。
このこだわりは、自閉スペクトラム症の方たちの体験によって翻訳すると
・曖昧な刺激、不確定な状況が不快
・お決まりのパターンを好む
・常同性・周期性を好む
という風に言い換えられるような気がします。
このこだわりは、色々な形で出現します。
一つは、概念の固さです。
言葉の意味は、隣り合った概念によって規定されます。
例えば、「明るい」 という言葉の隣には、「電灯」 「性格」 「お笑い芸人」 …
などのように連想する様々な概念が繋がっています。
そして、この連想される様々な概念というのは、時と場合によって変わるのです。
例えば、『夏用のサングラスを買いに行く』という話題を話していたとします。
二人には、「サングラス」「カッコいい」「男性がつける」「暑いときにつける」「夏」という連想の繋がりがあったとします。
その時に、定型発達者の方が、ふとサングラスをずっとかけている芸能人の話を始めたとします。
例えば、「サングラスをずっとかけている人って、何なんだろうね。顔を見せたくないのかな?部屋の中でかけてると暗くて見えにくそう…」
などといったとします。すると、その人の連想は、
「サングラス」「ずっとつける」「よくわからない」「暗そう」「顔をあんまり見せたくない」
のように変化します。
しかし、ASDの人は、この連想が変化したことに気がつかないか、ついていけないという現象が起こります。
ついていけない時に、「夏でもないのにね…」
と、少しずれた回答をしてしまうかもしれません。
この現象は、語用論では上手く説明が付かない現象だと思っています。
語用論での障害は、様々な論文に指摘されています。
ASDにおけるコミュニケーション・トレーニングでは、この傾向についても取り上げています。
参考:自閉スペクトラム症のコミュニケーション(雑談)・トレーニング