解離性障害は、実は一つの状態像でしかありません。
摂食の障害があれば、摂食障害と言われますが、その背景は非常に多様です。
同じように解離性障害もその背景は非常に多様です。
解離性障害は、PTSDの周辺症状としての解離だったり、解離性健忘だけが出てくる人、交代人格までいる解離性同一性障害までスペクトラムに繋がっています。
PTSDの周辺症状としての解離は、PTSDの治療をしていく中で、難治例化することがあります。しかし、この場合の解離は通常、解離性障害とは診断されません。例えば、ぼーっとするとか、遠のいている感じがするとか、なんだか怖いといった、漠然とした訴えしか出てきません。このような反応が出てくると、すこぶるエキスポージャーの効果が落ちます。言い換えれば、認知行動療法の効果が落ちていくのです。私の経験的に、こういうPTSDの周辺症状としての解離性障害がある場合は、EMDRの方が向きます。ある程度、EMDRで治療して認知行動療法に戻しても大丈夫なので、先にEMDR的な対応をした方がよいと感じるのです。
このような現象は認知行動療法だけをする人の間ではあまり議論されないように思えます。しかし、認知行動療法もEMDRもする人は、大体似たようなことを言っています。
さて、解離性健忘だけがあるケースは、結構あります。境界性パーソナリティ障害とかつけられている場合もこのような場合が多いのではないでしょうか。
リストカットするときだけ、解離しているというのはよくあります。実は、このような場合が、最も治療法の選択に迷います。
認知行動療法では、こういう場合弁証法的行動療法を行う場合が多いでしょう。ただ、一人では弁証法的行動療法ができないので、そのエッセンスだけを抜粋して行う事になります。一つの欠かせることのできないスキルはマインドフルネスでしょう。
しかし、解離性健忘だけの場合であっても、マインドフルネスが難しいケースがあります。そういう場合は、EMDRから始めたり、安全な場所と呼ばれるセルフコントロールの方法までは最低しないとマインドフルネスというスキルはできないことがあります。
一方で、解離性健忘だけのケースで、現在の適応が悪くて、解離性健忘が起こっており、解離に深く立ち入らない方がいいと感じる場合もあります。この場合は、積極的に認知行動療法を推し進めていくことになります。それは、解離は非常に医源的になりやすいからです。 …と多くの方はいいますが、実際はそんなこともないような気がします。
ただし、実際の適応が悪い場合は、認知行動療法的なスキルを先に教える場合があります。
解離性同一性障害も実は、実生活の適応とは全く関係がありません。
解離性同一性障害でも、ある程度の適応が良い場合があるし、悪い場合もあります。トラウマの影響が強い人も入れば、弱い人もいます。
解離性同一性障害の場合は、ある程度EMDRや自我状態療法などの特定のスキルが必然的に必要になってきます。
さて、問題はこれらの背景に発達障害がどう関わってくるかという点です。
実は、生死に関わらないトラウマ体験によって解離性障害・解離性同一性障害が起きる場合は、少なからず発達障害様の症状を持っている場合が多いのです。さらに、これらの発達障害はグレーゾーンのような、健常と発達障害の間にいるくらいの人が多いのです。これは、発達障害の特性が薄いために発見が遅れたとも言えるし、発達障害のような特性が、トラウマに対する脆弱性を引き起こしているとも思えます。
インターネットをみると、解離性同一性障害でアスペルガー障害という組み合わせが意外に多いと気付かされます。実際、多いと思います。
発達障害や発達障害の様なものが背景にある解離性障害、解離性同一性障害は非典型な病像を示すことが多い気がします。(必ずしも、そうとは言い切れませんが…)
このような場合は、発達障害に対する心理教育も非常に役に立ちます。おそらく、心理教育をするために診断名を告げる精神科医が多いんじゃないかと勝手に思っています。