暴露反応妨害法の落とし穴

強迫症(強迫性障害)
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今回は、暴露反応妨害法で有名なEdona Foaのグループが出している論文 Common Pitfalls in Exposure and Response Prevention (EX/RP) for OCD. から暴露反応妨害法について陥りやすいミスについて取り上げます。

この論文は、暴露反応妨害法を実践する上で、陥りがちなミスを解説しています。主に治療者向けに書かれている論文ですが、当事者、家族にとっても重要なことが書かれています。

曝露を十分に行わないこと

『曝露を十分に行わない』というのは、不安階層表の一番上のものまでしっかりしましょうということです。そしてその際には、『強迫症を持たない人が、通常しないようなことまでしましょう』と書かれています。そして、その例には、以下の文章があります。

例えば、トイレに関する汚染恐怖があるクライアントは、便座の上に置かれた食べ物を食べるかもしれません。

Gilihan et al., 2012

そして、重要なのは、この理論的根拠です。最も恐れている心配に対して挑戦し、それが害にはならないと体験することで完全な回復を目指すことにあります。そして、恐れていることを残すと再発のリスクが高まると書かれています。この部分使われているたとえ話を引用します。

強迫症の治療を癌の治療に例えることがあります。全ての癌細胞を取り除かなければ、残った癌細胞が増殖し、転移してしまいます。外科医は、取り除くのが難しいという理由で、癌細胞を残すことはできません。

Gilihan et al., 2012

また、この部分では、極端な曝露であっても、客観的なリスクは低いということ、曝露にはクライアントの同意が必要であること、不安が高い曝露に挑戦できない場合は、できるところから曝露に取り組むことなどが上げられています。

現実場面曝露と想像曝露など間違った方法で曝露をしている

現実場面曝露とは、「汚いと思うものに直接触れる」などの曝露です。想像曝露とは、「火事になった場面を想像する」などの曝露になります。この二つの曝露を「使い分ける」ということが必要になります。

例えば、汚いものに触れることが怖い人に対して、想像曝露ばかりを続けていても、『実際に触れていないから大丈夫』と感じてしまい、治療が最後まで完結しません。そのため、現実場面曝露までする必要があります。この論文の中では、現実場面曝露までした方が改善するとする論文の紹介までしています。

一方、想像曝露+身体感覚曝露までしないと、最終的には「中核的恐怖(core fear)」に曝露できないとも書かれています。ちなみに、想像曝露をするさいには、身体感覚曝露まで同時にすると効果があると書かれています。

想像曝露としては、下記の例文が紹介されています。この例では、確認強迫のクライアントが「責任」という中核的恐怖に曝露されるように書かれています。

私は強迫症を克服することを決意し、強迫症に関連する確認行為をやめることにしました。毎晩寝る前に家の玄関と裏口の鍵をかけ、取っ手を回したりドアを引っ張ったりして本当に鍵がかかっているかどうか確認せずに立ち去ります。また、毎晩、窓を閉めて鍵がかかっているかどうかを確認することも控えています。ある夜、ニュースで町の家に泥棒が入ったというニュースを見て、私はすべてのものが安全であるかどうかを再確認したいという強い衝動に駆られましたが、私にとって大事ななことは強迫症を改善させることなので、この衝動を抑えます。早朝、妻が「物音がしたから誰かいると思う」と言って私を起こしました。私が階下に降りようとスリッパを履いていると、妻は寝室にいる3歳の息子の様子を見に廊下に出ました。妻は強盗に出くわして悲鳴を上げ、息子を起こしてしまいました。息子は妻が強盗と格闘しているのを見て、泣き出してしまいます。強盗は妻を息子の寝室に押し込み、妻は転んで椅子に頭をぶつけました。強盗は階段を駆け下りて家を出て行きました。転倒して血を流している妻は、涙を流しながら私を見て言いました。「あなたはドアがロックされているかどうか確認しなかったでしょう?どうしてそんな無責任で身勝手なことができるの?強迫症を治すことばかりに気を取られて、家族に対する責任を怠っている」息子が侵入者が家に入ってくる悪夢を繰り返し見るようになったとき、私はひどい気持ちになり、さらに悪いことになりました。家族は私に守ってもらうことを期待していましたが、自分勝手に強迫症に取り組もうとしたために、家族を失望させてしまいました。今となっては、家族が私を再び信用することはないでしょうし、私は自分のしたことの罪悪感と恥ずかしさを抱えて生きていかなければなりません。

Gilihan et al., 2012

ちなみに制止学習による曝露や認知療法では、想像曝露に「想像したことが本当に起こる(TAF)」が本当なのかを含める「予期の反駁(ないし行動実験)」を同時に行います。

曝露中に来ぞらしを推奨している

曝露中は、曝露中の刺激に注意をむけたほうがよいと分かっています。そのため、曝露中に気ぞらしをしないほうがよいです。気ぞらしとは、曝露中に気を紛らわすなどをして注意をそらす行為になります。

この論文では、明確に書かれていませんが、強迫症にとって、気をそらす行為は、思考抑制を生み、強迫観念の出現頻度を高める行為になります。そのため、制止学習による曝露では、「曝露中に体験している感情を声に出す」ことが推奨されています。

再保証を提供している

強迫症の認知行動療法モデルの中には、「不確定性への非耐性」というものがあります。これは、「きれいかどうかがわからないから不安」「この曝露で正しいか不安」「このやり方であっているのか不安」といった、曖昧なものへの耐性が落ちてしまうという症状でした。このために、いわゆる「巻き込み(再保証を求める行動)」が出現します。この再保証を求める行動があると、なかなか曝露がうまくいきません。

ちなみに、この「不確定性への非耐性」というのは曝露をする際に「リスクが怖い」という形で出現します。例えば、「万が一、火事になったらどうしたらいいですか?」「もしかしたら、人を傷つけるかもしれませんが、大丈夫ですか?」などの形です。制止学習による曝露では、「リスクに対する耐性を身につける」ことを強調します。そして、このリスクに耐える力は、曝露の時間ではなく回数を重ねることで身についていきます。

中核的な不安を治療していない

中核的な不安(core fear)に対して、曝露を行うということです。そのためには、現実場面曝露、想像曝露、身体感覚曝露の3つが必要な場合があります。

精神的強迫行為に介入していない

精神的強迫行為とは、頭の中で行っている強迫行為のことです。最も有名なのは、「頭の中で思い返して確認する」というメンタル・チェッキングです。

精神的強迫行為に介入するには、精神的強迫行為についてしっかりと知ることが最も大切です。また、曝露中に自分の感情を口に出すことで、精神的強迫行為は自動的に止まります。

重要な他者が治療に参加していない

「重要な他者」というのは、恋人であったり家族であったりと、自分にとって重要な人になります。ここでは、主に「家族が巻き込み行為に加担している」という点に触れています。家族が、強迫症本人の強迫行為を手伝っていると、強迫症がなかなか改善しません。家族に強迫症のことを理解してもらい、巻き込みを止めてもらうということも重要になります。

参考文献

  • Gillihan SJ, Williams MT, Malcoun E, Yadin E, Foa EB. Common Pitfalls in Exposure and Response Prevention (EX/RP) for OCD. J Obsessive Compuls Relat Disord. 2012;1(4):251-257. doi:10.1016/j.jocrd.2012.05.002
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