今回は、強迫症のガイドラインの大事な部分をまとめます
薬物療法
第一選択薬は以下のようになっています。
薬物 | 推奨容量 | 推奨の強さ | 国内の状況 |
エスシタロプラム | 20-30 mg | A | 強迫症に適応なし 20mgまで |
フルオキセチン | 60-80 mg | A | 未発売 |
フルボキサミン | 200-300mg | A | 適応あり 150mgまで 症状に応じて適宜増減 |
パロキセチン | 40-60 mg | A | 適応あり 50mgまで |
セルトラリン | 150-200 mg | A | 適応なし 100mgまで |
シタロプラム | 40–60 mg | A | 未発売 |
クロミプラミン | 150-225 mg | A | 適応なし 225mgまで |
ベンラファキシン | 225-300 mg | B | 適応なし 225mgまで |
A – 一貫した、良質な患者指向のエビデンス(例:メタ分析、ランダム化比較試験(RCT)、または高品質の個別RCTによる一貫した所見)
B – 不一致または限定的な質の患者指向のエビデンス(例:低品質の臨床試験または不一致な所見を持つ研究の系統的レビュー/メタ分析、低品質の臨床試験/コホート研究/症例対照研究)
C – コンセンサスに基づく;臨床ガイドライン、外挿、ベンチ研究、疾患指向のエビデンス、通常の診療、意見、症例報告
SSRIの効果は、ガイドラインでは、抗精神病薬の有効性を判断するために、最大耐用有効量を少なくとも12週間継続することを推奨している(10-12週と書いてあることも多い)。 また、ガイドラインでは4~6週間以内に有効量範囲まで増量し、さらに6~8週間同じ用量を継続することも推奨している。
アメリカ精神医学会のガイドライン
SSRI | 開始用量および 増量単位 (mg/日) | 通常 目標用量 (mg/日) | 通常 最大用量 (mg/日) | 時に処方される 最大用量 (mg/日) | 国内の状況 |
---|---|---|---|---|---|
シタロプラム | 20 | 40-60 | 80 | 120 | 未発売 |
クロミプラミン | 25 | 100-250 | 250 | — | 適応なし 225mgまで |
エスシタロプラム | 10 | 20 | 40 | 60 | 強迫症に適応なし 20mgまで |
フルオキセチン | 20 | 40-60 | 80 | 120 | 未発売 |
フルボキサミン | 50 | 200 | 300 | 450 | 適応あり 150mgまで 症状に応じて適宜増減 |
パロキセチン | 20 | 40-60 | 60 | 100 | 適応あり 50mgまで |
セルトラリン | 50 | 200 | 200 | 400 | 適応なし 100mgまで |
SSRIの治療反応不良の予測因子
治療反応不良の臨床的予測因子:
- 発症年齢が早い
- 病気の期間が長い
- 病識が乏しい
- ため込み、性的/宗教的な強迫観念、清掃/洗浄、繰り返し/数える強迫行為の存在
- チックやうつ病の形での併存疾患
- 統合失調症型、境界性、回避性パーソナリティ障害の併存
神経画像による予測因子:
- 眼窩前頭皮質(OFC)と前部帯状皮質(ACC)の代謝が低く、治療前の尾状核代謝が高いほど、良好な反応を予測(PET研究)
- 視床体積の減少とOFC体積の増加はSSRI反応と関連(構造的MRI)
- ストループ課題でのDLPFC(背外側前頭前皮質)の活性化増加と、症状誘発課題での前頭領域の活性化減少
遺伝的予測因子:
- セロトニントランスポーター(5-HTTLPR)のプロモーター領域における特定の多型が治療反応と関連
- CYP2D6多型がSSRI反応と関連
一次治療における評価
推定では、約40~70%の患者がSSRIの試用に十分な反応を示し、寛解率は10~40%である。
完全反応(Full response)
- Y-BOCSスコアの35%以上の減少かつCGI 1または2
治療に反応/部分的反応 (Partical response)
臨床的に意味のある症状(時間、苦痛、強迫観念・強迫行為・回避行動に関連する障害)の減少。ベースラインからの重症度の相対的な減少で、強迫症の診断基準を満たす個人において。
- Y-BOCSスコアの減少が25%以上、35%未満
- CY-BOCS スコアの≥35%減少とCGI-I評価が1(「非常に改善」)または2(「かなり改善」)、少なくとも1週間持続。
- CY-BOCSスコアの≥25%但し<35%減少とCGI-I評価が少なくとも3(「最小限に改善」)、少なくとも1週間持続。
無反応(Non-response)
- Y-BOCSスコアの減少が25%未満、CGI 4
寛解(Remission)
患者がもはや障害の症候群基準を満たさず、最小限以上の症状がない。残存する強迫観念、強迫行為、回避行動が存在する可能性があるが、時間を消費せず、個人の日常生活を妨げない。
- 構造化診断面接が可能な場合:少なくとも1週間、強迫症の診断基準を満たさない。 Y-BOCSスコア 16未満
- 構造化診断面接が不可能な場合:CY-BOCSスコア≤12かつCGI-S評価が1(「正常、全く病的でない」)または2(「境界線上の精神疾患」)、少なくとも1週間持続。
回復(Recovery)
患者がもはや障害の症候群基準を満たさず、最小限以上の症状がない状態が長期間続く。残存する強迫観念、強迫行為、回避行動が存在し、重症度がわずかに変動する可能性があるが、全体的に時間を消費せず、個人の日常生活を妨げない。そのため、さらなる治療は不要。臨床医は治療の中止を検討するか、治療を継続する場合は再発防止を目指す。
- 構造化診断面接が可能な場合:少なくとも1年間、強迫症の診断基準を満たさない。Y-BOCSスコア 8未満
- 構造化診断面接が不可能な場合:CY-BOCSスコア≤12かつCGI-S評価が1(「正常、全く病的でない」)または2(「境界線上の精神疾患」)、少なくとも1年間持続。
再発 (Relapse)
反応または寛解または回復が達成された後、患者が症状の再現を経験する。寛解または回復していた患者の場合、強迫観念、強迫行為、回避行動が再び十分に時間を消費し、苦痛を与え、障害を引き起こし、強迫症の診断基準を満たすほどになる。
- 3ヶ月以上の適切な治療の後、CGI 6 またはY-BOCSスコアが寛解時より25%増加
- 必ずしも寛解/回復していない反応者の場合:CY-BOCSスコアが(治療前と比較して)≥35%増加し、CGI-I評価が6(「かなり悪化」)以上、少なくとも1ヶ月間。
- 寛解/回復者の場合:構造化面接(可能な場合)によって強迫症の基準を再び満たす。あるいは、CY-BOCSスコアが再び13以上かつCGI-I評価が6(「かなり悪化」)以上、少なくとも1ヶ月間、または重度の強迫症状の悪化により1ヶ月経過前に試験から早期に退出する必要がある。強迫症状の悪化以外の理由(例:自殺リスク)による試験中止は再発とみなさない。
難治性 (Reflactory)
- 用可能なすべての治療法で変化なしまたは悪化
略語: CGI: Clinical Global Impression(臨床全般印象評価尺度)、CGI-I:臨床全般印象改善度、CGI-S:臨床全般印象重症度、Y-BOCS:イェール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度、CY-BOCS:小児用イェール・ブラウン強迫観念・強迫行為尺度
治療プロトコル
第一選択治療:
CBT/BT (認知行動療法/行動療法)
15-20セッション後の反応:
- 反応あり → 寛解まで継続、4-6ヶ月ごとにブースターセッション
- 反応なし→ SSRI (選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
SSRI:
- 反応あり → CBT/BT + SSRI
- 反応なし → 下記の「反応なし」オプションへ
SSRI: 回復または最小限の症状が1-2年続いた場合、数ヶ月かけて徐々に減量。 無期限治療: 持続的な症状、再発の既往、重度の病気 CBT: 4-6ヶ月ごとにブースターセッション
SSRI and/or CBTが効果がない場合
部分的反応の場合のオプション
- CBT/BT(提供されていない場合)
- アリピプラゾール/リスペリドン
- メマンチン
- ラモトリギン
- 5HT-3拮抗薬
反応なしの場合のオプション
- 2番目のSSRI / CBT(提供されていない場合)
- クロミプラミン / CBT(提供されていない場合)
- 他の未試行のSSRI
- ベンラファキシン
上記でも治療反応が十分ではない場合のオプション
- 超高用量SSRI
- クロミプラミンによる増強
- ケタミン
- rTMS* /tDCS*
- リルゾール/N-アセチルシステイン
最後に考慮する治療:焼灼的神経外科手術 / 脳深部刺激療法
増強療法における容量
薬剤名 | 推奨用量 | 推奨の強さ* | 国内での動向 |
---|---|---|---|
アリピプラゾール | 5-10 mg | A | 適応なし |
リスペリドン | 1-3 mg | A | 適応なし |
ハロペリドール | 2.5-10 mg | B | 適応なし |
メマンチン | 10-20 mg | B | 適応なし |
ラモトリギン | 100mg | B | 適応なし |
オンダンセトロン | 1日2回 2-4 mg | B | |
グラニセトロン | 1日2回 1 mg | C |
その他の心理療法
アクセプタンス&コミットメント・セラピー
このセラピーは、アクセプタンスとマインドフルネスに加え、コミットメントと行動修正エクササイズを実践することで、心理的柔軟性を向上させることを目的としている。 予備的なエビデンスはその効果を示唆しているが、より大きなサンプルでCBTと比較検証する必要がある。
ストレス・マネジメントとリラクセーション・トレーニング
これらは従来から多くの研究でCBTの対照群として用いられてきました。 ストレス・マネージメントやリラクゼーション・トレーニングは非特異的な効果を持つかもしれませ んが、強迫症の治療に有効であるという証拠はありません。
マインドフルネスに基づく認知療法
マインドフルネスに基づいた療法は強迫症に有用であると考えられています。 予備的なデータでは、強迫症治療における有用性が示唆されている。 RCTのプロトコールは発表されているが、臨床集団におけるエビデンスは発表されていない。
家族包括的治療
家族包括的治療(FIT)のアプローチは、家族機能を改善し、行動療法などを促進するために、家族を治療に含めることを目的としている。 家族による強迫症状の緩和を対象とした研究では、患者の機能がより改善したことが報告されている。 家族による症状の緩和は治療成績の低下と関連するため、家族もCBTに参加することが推奨される。
引用文献
Janardhan Reddy YC, Sundar AS, Narayanaswamy JC, Math SB. Clinical practice guidelines for Obsessive-Compulsive Disorder. Indian J Psychiatry. 2017 Jan;59(Suppl 1):S74-S90. doi: 10.4103/0019-5545.196976. PMID: 28216787; PMCID: PMC5310107.
Koran LM, Hanna GL, Hollander E, Nestadt G, Simpson HB; American Psychiatric Association. Practice guideline for the treatment of patients with obsessive-compulsive disorder. Am J Psychiatry. 2007 Jul;164(7 Suppl):5-53. PMID: 17849776.
Pallanti S, Quercioli L. Treatment-refractory obsessive-compulsive disorder: methodological issues, operational definitions and therapeutic lines. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2006 May;30(3):400-12. doi: 10.1016/j.pnpbp.2005.11.028. Epub 2006 Feb 28. PMID: 16503369.