強迫性障害 (強迫症)、は、強迫観念と強迫行為に代表される症状によって構成されている病気だ。強迫観念とは、「手が汚れたんじゃないか?」「スイッチが付いているんじゃないか?」「誰かを知らない間に怪我をさせたんじゃないか?」などのような考えだ。強迫行為は、手を洗う、確認する、お祈りを唱えるなどの行為を指す。これらが悪循環を起こしてしまうのが強迫性障害(強迫症)だ。
強迫症の治療には、SSRIと呼ばれる薬物療法と、認知行動療法(行動療法)が併用されることが多い。認知行動療法が出てくるまでは、強迫症は難治性の神経症とされてきた。強迫症に対する認知行動療法としては曝露反応妨害法(暴露儀式妨害法)が推奨されている。これは、強迫症の方が苦手な刺激に対して直面する(暴露)と、その後に強迫行為をしない(儀式妨害)を組み合わせた方法で、Exposure and Ritual Preventionの頭文字を取ってERPと呼ばれることも多くなってきている。
さて、実際にどのような治療をするかというと、まずは悪循環になっているという事実を観察することから始まる。『何度も手を洗う。満足した洗い方をした後すぐは、ほっとできるけれど、またしばらくすると汚れた感じが出てくる』『何度も確認して大丈夫と思うんだけれど、しばらくすると大丈夫かな?と思ってしまう』のように、強迫行為をいくらしても、自分の目的が達成できないということを自覚することが大切だ。強迫行為は、意味が無い行為(儀式)だから、辞めたいと思えるまで、この強迫行為は本当に役に立つのか?と観察することが大切だ。
次は、は自分が触れられないもの状況、場所などを0~100まで書き出す。これを不安階層表(ハエラキー)と呼ぶ。強迫症の方の多くは、洗浄強迫(手洗い)の他に確認強迫を持っている場合が多い。これらは、テーマ別に書いておくといい。治療が進めば、この不安階層表に書いてある項目の点数が下がってくる。これは、治療がうまくいっている証拠になる。インターネットで探せば、Y-BOCSなどの強迫症の評価スケールがあるので、これも時間があればといてみるといいと思う。それも、面倒だと思う場合は、手洗いの回数、手洗いの時間、水道代、確認に使う時間、確認の回数などをチェックしておくと、良くなっていくのがわかるのでいい。治療が進んでいることは、治療継続へのモチベーションになる。
さて、不安階層表が書き上がったら、50~100の間の課題に挑戦する。不潔恐怖ならば、汚いと思っている場所に触る。確認ならば、スイッチをわざと確認しない、振り返らない、チェックしないでその場をやり過ごす。不吉な数字をわざと言う、バチが当たるような行為をするなどをする。この時、最低でも30分はこの状況に耐える。より丁寧にやりたい人は、不安感を0~100にして、5分毎に今、何点くらいかを表を作って書き込むといい。
ここでよく問題になるのが、何時になったら、手を洗ってもいいか?ということだ。基本的には、目に見えるゴミ(ケチャップ等)がついた場合のみ洗うというやり方がよいと思われる。より良い方法は、洗ってはいけないタオル(汚れタオル)を準備して、洗ったら、その汚れタオルで汚しなおすという方法だ。
最初にERPをするときは、とてつもない勇気が必要になる。もし、カウンセリングをうけているならば、治療者がやって見せるといい。家族がやって見せても大丈夫だ。ただし、「大丈夫ですよ」「綺麗ですよ」などの声かけは、せっかくの勇気を水の泡にしてしまうので禁句だ。
治療がうまくいけばどのような感覚になるかと言うと、全てが汚れてしまった、私は重大な病気に感染した、泥棒に入られた、家が火事になった、私には天罰がくだる、人を殺してしまった……でも、それでいい。という感覚になる。
このERPをできれば毎日継続することが良い。毎日行えば、それだけ治るスピードが上がる。そして、色々な刺激に対してやってみることが更によい。例えば、家のトイレのスイッチ、リビングのスイッチ、ストーブのスイッチ、コンロのスイッチ等だ。時々は、まったく不安にならない刺激もある。言い方を変えれば、ERPをした刺激が不適切な場合もある。しかし、それはERPをしないと分からない。沢山ERPをすれば、ERPが上手くなる。しっかりと寛解状態をキープできる方は、自分がどんな刺激を避けていて、どんな刺激は大丈夫かをしっかりと分かっておられる。
ERPをしているのに、良くならないという場合は、ERPの際の刺激が適切でない場合がほとんどだ。無意識のうちに、本当に避けている刺激を回避している場合もある。確認強迫では、「確認をしないとどうなるのか?」と考えを突き詰めていく必要がある。
仕事上、確認や手洗いをしないといけない方もいる。そういう場合は、仕事上は確認や手洗いをよしとする。ただし、必ず仕事以外の場面でERPをすることが必要になる。