もう一つの強迫症への認知行動療法(ハビット・リバーサル・トレーニング)

強迫症(強迫性障害)
Pocket

今回は、かなり専門的な内容です。これは、以前に質問があった内容への回答になります。

前回、強迫症のタイプによっては、暴露儀式妨害法ではなくハビット・リバーサルが有効なことを書いています。(これは、質問への回答の予備知識になります)

参考:強迫症(強迫性障害)の強迫観念と強迫行為の分類とタイプ:タイプによる治療戦略

さて、ハビット・リバーサル・トレーニングは、もともと慢性チックに用いられていた方法です。慢性チックから、抜毛症に用いられ、最近では強迫症に用いられている例もあります。ハビット・リバーサルは、簡単に言うと習慣を逆転させましょう(本当は、置換させましょうという方が正しいです)という方法です。

チック症は、自分の意図とは関係なく、首を動かしたりするものです。ビートたけしさんとかが有名ですね。この時、この首を動かす動作を拮抗する動作を行うことで、チックを行う衝動が過ぎ去るまで耐えるという方法です。抜毛症では、何かを握るということがよく行われます。

抜毛症のハビット・リバーサルについては以前に書いています。

参考:髪の毛を抜く癖が治らない … 抜毛症

最近、ベアー先生の本を読み直すと、リラクセーションが必須であろうと書いてありました。ベアー先生のプロトコルでは、
1.意識化練習
2.拮抗反応の学習
3.リラクセーション練習
4.偶然性の管理(ほうびの必要性)
5.汎化練習

という風になっています。

チック関連疾患では、衝動性を抑えるためにリラクセーションが必須であろうというのが、ベアー先生の意見でした。私自身は、チック関連の抜毛症を治療した経験がないので、そこまでリラクセーションが必須のようには思えませんでしたが…。習慣が抜毛症というレベルに達した方が多いのです。

さて、強迫症のハビット・リバーサルでは、運動的タイプの強迫症には有効な場合があると思っています。しかし、強迫症の場合は、拮抗する行動がない場合が多いです。例えば、抜毛症であれば、ペンを握る等の両立しない動作がいくつかあります。

ハビット・リバーサルの使いどころとして、瞬間的な衝動をやり過ごせば、その行為をしようという気が起きなくなる行動が有効性をより良く発揮します。

強迫症であれば、なんかよく分からないけれど振り返ってしまう(ただし、忘れ物確認・加害の強迫は除く)、やり直してしまう場合とかがハビット・リバーサルが有効な気がします。

なぜ、認知的タイプには上手くいかないかというと、認知的タイプの場合、その行為自体は実はどうでもよく、その行為をしなかったことによる不安・恐怖の方が大切になるからです。そのため、行為だけを止めても、衝動は減りません。言い方を変えると、エクスポージャー(刺激に暴露する)が必要になります。

一方、運動タイプは、その行為をしなかったことによる将来の不利益の影響がそんなにありません。そのため、その行為への衝動をなんとか耐えしのげば、強迫行為は減らせるのです。

実際の臨床では、運動的タイプの強迫症にも暴露儀式妨害法を用います。しかし、このタイプの方は日常の中で、ついつい、いつの間にかやってしまうことが多いのです。正確性・数数え・対称性等などが多いです。つまり、暴露儀式妨害法だけでは不十分になってきます。

この時、ハビット・リバーサルとして、確認等の強迫行為と両立しない行動をとるように練習してもらいます。例えば、正確性の強迫ならば、このルールにそってやり直ししたいという衝動にかられたら、手をぎゅっと握ってもらう、利き手で、反対の腕をゆっくりと触る等の行動をとってもらいます。

さらに、実際の臨床では、マインドフルネス・トレーニングを追加で行う場合もあります。強迫症に対するマインドフルネスは、また書きたいと思います。

Pocket

タイトルとURLをコピーしました