強迫症(強迫性障害)の強迫観念と強迫行為の分類とタイプ:タイプによる治療戦略

強迫症(強迫性障害)
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今回は、少し専門的な内容です。もし、質問があればコメントにでもどうぞ。

強迫性障害は、かなり疾患の多様性がある病気です。強迫性障害は、DSM-5において、①強迫症、②醜形恐怖症、③ためこみ症、④抜毛症、⑤皮膚むしり症 が主な病気としてあげられています。
更に、大きな強迫性障害関連疾患としては、チック・トゥレット症候群などがあげられています。

強迫症/強迫性障害は、強迫観念と強迫行為の組み合わせが実は一対一対応ではありません。例えば、洗浄強迫の人でも、確認が強迫行為としてでる場合がありますし、確認行為を強迫行為としている場合でも、考えられる強迫観念が複数ある場合もあります。

強迫性障害の権威である兵庫医大の松永先生は、強迫性障害の臨床評価尺度であるY-BOCSを分析して、強迫観念-強迫行為のテーマとして、4つの物があるだろうとしています。その4つは、①ためこみ、②非対称性、③禁止された考え、④洗浄です。

①ためこみは、ためこみ症として独立しています。②非対称性は、強迫観念として非対称性が気持ち悪いというものがあり、強迫行為として、並べ替える、繰り返し行う、数を数える、確認するなどがあります。③禁止された考えは、強迫観念として、加害恐怖、性的・宗教的な怖れなどがあり、強迫行為として確認が出てきます。④洗浄は、強迫観念として汚染、強迫行為として洗浄が現れます。

また、最近はDY-BOCSという因子ごとに分けられたY-BOCSがあります。DY-BOCSにある因子は、①障害、暴力、攻撃性あるいは天災による危害、②性的及び宗教的、③対称性、配列、数えること及び整理整頓、④汚染に関する、⑤保存と収集に関する、⑥その他 です。通常は5つのディメンション(次元)です。

ただし、これらの分け方は、あまり臨床上は使いづらいこともあります。一般臨床をよく反映している分類としては、Edona Foaの分類があります。Foaの分類では、①洗浄・清掃強迫、②確認強迫、③繰り返し強迫、④整理整頓強迫、⑤ためこみ・収集強迫、⑥想像型儀式行動や、心配性、一般的な強迫観念だけになります。この分け方は、かなり古く、ためこみ症が完全な疾患単位として分離されていませんが、非常にクリアな分け方だと思います。

以下に概説します。括弧内は、より一般的な言い方です。原本にはありません。

①洗浄・清掃強迫
このタイプは、汚染されたことを怖れて、その汚染されたものを洗浄しようと強迫行為を行います。最も一般的な強迫性障害です。

②確認強迫(確認強迫+加害恐怖)
何らかの大災害が起きないように、過剰な点検を行うタイプです。窓や鍵を点検するなどがあります。巻き込み強迫が起きやすいタイプでもあります。
また、Foaの分類では、加害恐怖も確認強迫に入っています。加害恐怖は、自動車を運転している場合に誰かをひいたんではないか?と確認するタイプです。
時々、確認強迫の人の中でも、メンタルチェッキングと呼ばれる、心のなかの記憶を頼りに確認を行うタイプがいます。このタイプは、明確な行動上の確認はしませんが、タイプとしては確認強迫として考えます。
同じ確認でも、明確な強迫観念がないタイプは、確認強迫には通常いれません。例えば、自分の納得がいくまである行為を繰り返す強迫性緩慢は、強迫行為として確認を行いますが、強迫観念が明確でない場合が多いです。同じように非対称性等の強迫も確認が強迫行為として出現しますが、確認強迫には通常いれません。入れると混乱するからです。このあたりは、認知的・運動的という概念が役に立ちます。(後述)

③繰り返し強迫(縁起強迫)
これは、一度恐ろしい考えが心に浮かぶとそれを実現させないためには、ある行為をくりかえさなければならないと感じる強迫です。一般的には、縁起強迫と言われると思います。縁起をかつぐために儀式的な行動を行うからです。内容が神様に祈る等の他人から見ても意味のある行動の場合もあれば、部屋に右足から入るなどの、他人から見てもよく意味がわからない強迫行為を持っている場合もあります。
ただし、この繰り返しを行う人の中には、あまり強迫観念が明確でない人もいます。何か嫌な感じがするという感じです。臨床上の対応としては、これも認知的・運動的という概念で考えるといいのかもしれません。

④整理整頓強迫(対称性、正確性の強迫)
これは、非対称性、完璧でない場合に、きちんと並び替える、左右対称にそろえるという強迫行為を行います。経験的には、対称性をしっかりそろえる。正確にするという強迫行為が多い気がします。また、正確性の強迫は、正確に人の話を理解しようとして質問を何度も行うタイプの人もいます。これは、強迫行為に気が付きにくいために厄介です。医療スタッフでも、正確性の強迫をしらない人は、この巻き込みにはまってしまうことがあります。

⑤ためこみ・収集強迫
この当時は、まだものを捨てることに苦痛を感じる強迫であり、ため込みは単に捨てるという行為を回避しているために起こっていると考えられていました。実際は、ものを買ってくる、整頓することの障害もあります。現在は、強迫症から独立してため込み症になっています。

⑥想像型儀式行動、心配性、一般的な強迫観念だけ(純粋強迫観念)
目に見える強迫行為はありませんが、ネガティブなイメージが繰り返し頭の中に浮かんできて、それを打ち消すために何らかの考えをしようとしてしまう強迫です。例えば、「死」という言葉が浮かび、「幸せ、幸せ」と心の中で唱えるなどです。このような心のなかでの打ち消しが明確にみられない人もいます。このタイプの人は、強迫性障害ではなく、フラッシュバックだと思っておられる方が多いです。確かに、フラッシュバックと同じように過去の記憶が思い出されて、苦痛を伴います。治療上は、エクスポージャーをするという点では似ていますが…。しかし、想像型儀式行動の方は、よくきけば他の強迫性障害を持っている場合が多いです。PTSDと強迫性障害が合併することはあると思いますが、PTSDはやはり、他の全ての症状(悲観的認知、回避、過覚醒)がそろっていないとPTSDと考えないほうが良いです。
そして、この純粋強迫観念の人は、誤診が多いです。(あまり大きな声では言えませんが) 。多くの人は、発達障害のフラッシュバックだと思われていたりして、抗精神病薬が投与されていることが多いです。

さて、治療を考える上で重要な補足をしていきます。

まず、認知的・運動的という概念です。これは、非常に重要です。認知的タイプは、強迫観念が明確にあります。本人さんも自分の強迫観念を話せます。例えば、「◯◯がおきるんじゃないか?」「汚れたんじゃないか?」等です。代表は、洗浄強迫、確認強迫です。
一方、運動的タイプでは、強迫観念が必ずしも明確ではない場合があります。きいても、なんかうまくいかない、なにか嫌など抽象的な回答が返ってくる場合が多いです。このタイプの代表は、正確性、非対称性です。また、状態像として強迫性緩慢もこのタイプになります。
近年、強迫性障害はチック・トゥレット症との関連が指摘されていて、この運動タイプはチック・トゥレットに近い病態であると考えられています。運動タイプの人には、チックが合併しやすいことも臨床上よくあります。また、抜毛症・皮膚むしり症もこのタイプに近いです。このタイプは、よく話をきくとまさにぴったり感覚(Just right feeling)と呼ばれる感覚を持っていて、このJust right feelingを求めるために強迫行為等を行うことがよくあります。just right feelingの例としては、服装をピタッとしたものを着る、ペットボトルの蓋をぎゅっとしめるなどです。強迫性緩慢はこれが行き過ぎている状態だろうと考えられます。

参考:強迫性緩慢

さて、認知的強迫はSSRIによく反応することが分かっています。一方、運動的強迫は、SSRIにもよく反応しない難治例であることが言われています。

では、認知行動療法はというと…かなり複雑です。認知行動療法は、暴露儀式妨害法とハビット・リバーサル・トレーニングが強迫症の治療の中心になります。例えば、抜毛症・皮膚むしり症は、ハビット・リバーサルで治療をします。だからといって、運動的タイプにハビット・リバーサルを機械的に使うのは、上手く行きません。というのも、運動的タイプの中にも暴露儀式妨害法が効果があるタイプがあります。例えば、正確性・非対称性には暴露儀式妨害法が効果があるからです。

では、ハビット・リバーサルが有効な強迫症とはどんなものだろうと思いますね。これは、ここには書けないほど、摩訶不思議な強迫観念・強迫行為があるタイプです。(ここには書けないとは、守秘義務のため)多くは、なんでそんなことしたがるの?と思う奇妙な行動をやらずにはいられない衝動にかられるタイプの人です。

ただ、実臨床では、暴露儀式妨害法かハビット・リバーサルかはいつも悩みます。暴露儀式妨害法をやっていて、上手く不安が高まらない人は、マインドフルネスを併用するという形で儀式妨害のようなハビット・リバーサルなようなものを行います。代表は、醜形恐怖症です。

参考:「自分の顔が醜くて嫌だ」という人へ

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