○自閉スペクトラム症が背景にある場合
自閉スペクトラム症があると、言葉の裏にあるメッセージに気づくことが苦手であったり、裏にあるメッセージを読み間違えたりしてしまいます。これが、「指示」という場面でどのように出現しているかが問題になります。
例えば、「ユーザーごとに、どの商品を買っているのか、データを出してくれる?」とお願いされる場合、『なぜ、そのデータを調べたいのか?』という情報が、この指示には含まれていないのです。そのため、例えば、ユーザーAは、○○と××を購入…のようにとても膨大なデータを持ってきて、「うん、確かに私が指示したことはやったいるんだけど、私が欲しいのはこういうデータじゃないんだよね…」と言われてしまいます。
定型発達者は、『なぜ、その仕事をやってきて欲しいか?』を明言されずに、指示を受けた時、「こういうことをしたいのかな?」とその指示の目的を補完しています。そして、その目的が不明な場合は、「こういうことがしたいんですか?」「どういうことがしたいんですか?」と聞き返しています。
これは、電話対応・窓口対応で顕著に起こります。例えば、架空の事例で、どのように、この目的を補完しているのかの例を考えてみます。
事例1:美容室にて
病室に電話がかかってきて、「ここって、朝は7時とかって、空いてないんですよね?」と質問されたとしましょう。この質問だけに応えるならば、「営業時間は、9時からなんですよ」と応えることになりそうです。しかし、ここで『朝7時って、どこの美容室も普通は空けてないと思うけど、何だろう、変だな?…もしかして、何か特別な事情があるのかな? そうなると、結婚式とかかな?』と、相手が変な質問をしてきた目的を考え始めます。「もしかして、結婚式か何かですか?」と聞き返します。そうすると、「そうなんです、朝10時にこっちをでないと行けなくて…」と相手が、目的を言ってくれます。そこで、「もし、カットが必要でしたら、前日の夜にしておいて、当日は8時30分に店を空けますんで、そこでセットという形でもできますよ?」と別の提案をすることができます。
事例2:職場にて
上司から、「今度、うちの会社で新しく導入しようかどうか迷っているシステムの研修会があるんだけど、課長以上で行ける人がいないから、ちょっと研修に行ってきてくれないか?」と頼まれたとしましょう。ここで、上司から頼まれたことを実行すると、『研修に行って勉強してくる』ということになります。しかし、『なぜ自分に研修に行ってもらうように頼んだのか?』という目的を考えていきます。もしかすると、『まあ、導入しようとは思っていないけれど、もしかしたら、導入してみるといいかもしれない。ただ、その為に課長以上の予定を削るのももったいないから、部下に行ってもらって、様子を探ってもらおう。導入する際に、検討したほうがいいかどうか探りをいれよう。』ということかもしれません。そうすると、『会社で導入できそうかどうか、導入するメリットはあるのかを考えながら研修に参加する』という考えや、『研修の内容を上司や、社内の何人かに報告する』という考えが生まれてきます。
事例3:窓口対応にて
携帯電話会社で窓口対応をしているとします。ある方がやってきて、「友達に、私の携帯だったら誰にでも無料で電話ができるって言われたんですけど、できますか?」ときかれたとしましょう。この質問に正確に応えるならば、電話はできないということになるでしょう(もっとも、誰にでも無料で電話ができるプランもありますが)。しかし、無料通話アプリやLINEを使えば無料通話は可能になったりします。そのような知識があれば、「いまのプランでは、通話が無料にはなりませんが、LINE等のアプリを使えば無料通話はできますよ」という返事になるかもしれません。
次は、それぞれにどう対処していくかを考えていきます。